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この記事は、DevOpsとは何かを改めて理解しておきたい方に向けて分かりやすく解説しています。
DevOps導入の目的やメリット、実際の導入ステップからDevOpsの導入が効果的な組織の特徴までDevOpsの導入を検討されている方にも役立つ内容になっています。
※この記事は約15分で読めます。
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DXを推進する立場にある方は、一度は耳にしたことがあるであろうDevOpsという言葉。ソフトウェア開発やアプリケーション開発において開発と運用をスムーズにつなぐための考え方の一つです。今や国内のDXが進む企業の約8割がDevOpsを取り入れているという事実をご存じでしょうか?
IDC Japanが2023年に発表した「2022年 国内DevOps/開発プラットフォームユーザー動向調査」によると、国内企業のDevOpsの実践率は年々上昇し続けており、2022年では59.3%となりました。さらに、同調査ではDXが進展している企業ほどDevOpsの実践率が高い傾向がみられ、DX定着化段階にある企業に至っては79.2%がDevOpsを実践しています。約8割というこの数字は、結構インパクトが大きいのではないでしょうか…!
このようにDXを進めていく上で、必須の要素となりつつあるDevOpsですが、「ざっくりは理解しているつもりだけど、詳しいところは分からない…」というDX推進の担当者も意外と多いはず。競合他社はDevOpsを早い段階で取り入れ、既に実践しているかもしれません。DevOpsを取り入れていないと迅速な開発とデプロイが難しく、競合他社に後れを取る可能性が高くなります。顧客ニーズの変化に素早く対応できないため、市場シェアを失う可能性もあるでしょう。
他社に後れを取り、知らぬ間に競争力の低下を引き起こさないためにも、改めてしっかりとDevOpsについて理解しておきましょう!
目次
1. DevOpsとは?その目的と潜在的な課題
DevOpsという用語は、"Development"(開発)と"Operations"(運用)を組み合わせたものです。このアプローチは、ソフトウェア開発のプロセスをスムーズにし、開発と運用の間の壁を取り払うことを目的としています。DevOpsは、2009年に開催された「Agile 2009 Conference」での一連の発表とセッションの中でパトリック・デブア(Patrick Debois)によって提唱されました。それ以降、世界中の多くの企業で採用されており、製品の品質を向上させ、市場へのリリース時間の短縮を実現しています。
開発と運用の間の壁を取り払うというのが、DevOpsを導入する際の大きな目的になっています。では、開発と運用の間に壁があるという、大前提として存在するこの問題は具体的にどういうものなのでしょうか?
※開発と運用の間の壁とは?
開発と運用の間の壁は、開発チームと運用チームが異なる目標やプロセスを持ち、それぞれが独立して作業を進めることで生じます。具体的には以下のような違いがあります。
〇開発チーム:
変更を頻繁に行うことにより、新しい機能やアップデートを可能な限り早く市場にリリースしたいと考えています。
〇運用チーム:
システムの安定性とセキュリティを最優先事項としており、変更はリスクをもたらすため、できるだけ避けたいと考えています。
この相反する目的が、チーム間でのコミュニケーション不足を引き起こし、それぞれが異なる方向を向いて作業してしまうことがあります。両チームにおける作業を行う上での価値観の違いが、開発スピードを弱めてしまう大きな要因になりうるのです。
開発スピードの向上もソフトウェア開発において多くの企業が抱える課題の一つです。開発スピードが遅くなることにより、追加コストや納期の遅れを引き起こし、ユーザーや顧客の信用を失いかねません。また、市場のニーズに素早く対応できず、市場競争力の低下に繋がるなど多くの悪影響が考えられます。DevOpsを上手く取り入れることで、品質を落とすことなく開発スピードを向上させる効果が期待できます。
2. DevOpsを実現するための3つの要素
DevOpsを実現するためには、主に以下の3つの要素が必要になります。
これらはDevOpsの原則と呼ばれることもあります。
原則といっても、公式な規格や規則で定められているわけではなく、業界の実践者や専門家によって共有され、時間とともに進化してきた一連のベストプラクティスや指針のようなものです。
- プロセスの自動化:
自動化はDevOpsの核心です。開発・運用工程におけるビルド、テスト、デプロイメント、インフラ管理等の各プロセスを自動化することで、手作業によるエラーを削減し、作業効率を大幅に向上させます。
次項で詳しく解説しますが、例えば継続的インテグレーション(CI)ツールは、コード変更があるたびに自動的にビルドとテストを実行し、問題を早期に発見することができます。
ここでいう問題とは、ソフトウェア開発中に発生する潜在的な問題を指します。コードのバグやモジュールを連携させる際、連携が上手くいかないといった問題、あるいはコード内に存在するセキュリティホールや脆弱性が当てはまります。小さな問題が大きな障害に発展することを防ぎ、継続的な品質向上を図ることが可能になります。
- 継続的インテグレーション(CI)と継続的デリバリー(CD):
継続的インテグレーション(CI)は開発者が頻繁にコードをマージするプラクティスです。具体的には、複数の開発者がそれぞれ異なる部分のプログラムを同時に改良または機能追加を行っている場合、それぞれの変更を安全に一つのプログラムに統合する作業のことを指します。
このプロセスを通じて、開発中のソフトウェアが常に最新の状態に保たれ、すべての開発者が最新のコードに基づいて作業を進めることができます。この統合作業を効率的に行うために継続的インテグレーション(CI)ツールが使用されます。
継続的デリバリー(CD)は、開発者が作成または更新したソフトウェアを、テストを経て問題がないと確認された後、実際に人々が使う環境(本番環境)に自動的に反映する作業を指します。この作業を通じて、新機能の追加や既存のバグ修正が行われ、アップデートがユーザーに提供されます。
継続的デリバリー(CD)を導入し、作業を自動化することにより、ソフトウェアのリリースを可能な限り早く、かつ安定して提供できるようになります。
- チーム間のコラボレーションとコミュニケーション:
DevOpsはチーム間の壁を取り除き、開発者、運用チームが密接に協力する環境構築を促します。具体的には、共通の目標を持つこと、プロジェクト管理ツール等を導入することによって、一体感醸成や作業の効率化を実現し、問題を迅速に解決できるようになります。
3. DevOpsを導入することで得られる4つのメリット
徐々にDevOpsがどんなものなのかイメージが湧いてきましたでしょうか?続いて、導入することでどんなメリットが得られるかを見てみましょう。
- エラーの減少と品質の向上
DevOpsの導入により、継続的なテストとデプロイメントプロセスが自動化され、エラーの早期発見と修正が可能になります。これにより、ソフトウェアの品質と信頼性が向上します。
- フィードバックループの短縮
DevOpsでは、開発と運用の連携が強化されるため、ユーザーや顧客からのフィードバックを迅速に反映することができます。これにより、製品の改善サイクルが短縮され、より迅速に市場のニーズに対応できるようになります。
- 開発と運用のギャップの解消
DevOpsは、開発チームと運用チームの連携を促進することで、両者の間に存在するギャップを解消します。これにより、コミュニケーションの障壁が取り除かれ、チーム全体での協力が強化されます。
- 開発スピードの向上
DevOpsの導入により、プロセスの自動化と効率化が進み、開発からリリースまでのスピードが大幅に向上します。これにより、迅速に製品を市場に投入することが可能となり、競争力が向上します。
このようにプロセスの自動化により開発、運用チーム間の壁を取り払い、結果的に開発スピードを向上させることができるのです。最終的にDevOps導入の目的に繋がっていくとも言えます。
4. DevOps導入に向けた4つのステップ
では実際に導入していくには、どのようなステップを踏んでいくのでしょうか?
以下の4つのステップで進めていきます。
- 現状の評価
DevOps導入の第一歩は、現在の開発および運用プロセスの評価です。これには、現行のワークフロー、ツール、チームの連携状況、ボトルネックの特定が含まれます。現状を正確に把握することで、改善が必要な領域を明確にし、具体的な目標の設定ができるようになります。
- 目標の設定
次に、DevOps導入の具体的な目標を設定します。これには、開発スピードの向上、エラーの減少、品質の向上、フィードバックループの短縮などが含まれます。目標は明確かつ測定可能であることが重要です。KPIやKGI指標を設定し、進捗を定量的に評価できるようにすることが重要です。
- ツールの選定
DevOpsの実践には、適切なツールの選定が不可欠です。効果的なDevOps環境を構築するために、以下のような種類のツールを検討する必要があります。
- バージョン管理ツール
ソースコードの変更履歴を追跡し、誰が、いつ、どのような変更を行ったのかを把握することができます。全体の動きを可視化し、チーム間での協力を促進するためのツールです。
ツール例:Git、Subversion(SVN)など。
- 継続的インテグレーション/デリバリー(CI/CD)ツール
コードの自動ビルド、テスト、デプロイを行うためのツール。従来開発者が手動で行っていたプロセスを自動化することにより、作業効率化や問題の早期発見、エラーの減少につながります。
ツール例:CodePipeline、CircleCI、GitHub Actionsなど。
- 構成管理・自動化ツール
インフラストラクチャのプロビジョニングや設定を自動化するためのツール。簡単にいうと、コンピューターシステムやネットワークの準備と設定を自動的に行うことができます。同じ品質のシステムを効率的に構築・維持することができるツールです。
ツール例:Ansible、Puppet、Chef
- モニタリングツール
システムのパフォーマンスや健全性を常に監視するツールで、安定運用を支える役割を担います。異常を検知した際、自動でアラートが送信されるため、担当者が迅速に対応することができます。
ツール例:Prometheus、Grafana、Nagiosなど。
これらのツールを適切に選択し、統合することで、開発から運用までのプロセスを効率化し、自動化することができます。ツールの選定にあたっては、組織の規模、既存のインフラストラクチャ、チームのスキルセット、そして設定した目標を考慮に入れることが重要です。また、選択したツールが相互に連携できることを確認し、シームレスなワークフローを構築することが求められます。
- 文化変革
DevOps導入の成功には、組織文化の変革が不可欠です。開発チームと運用チームの連携を強化し、協力体制を築くことが求められます。これには、定期的なコミュニケーション、共同作業の促進、共通の目標の設定が含まれます。また、失敗を恐れずに挑戦し、継続的に改善を行う文化を育むことも重要です。
企業におけるDX推進においても然りですが、DevOpsの定着には従来の組織構造、さらにはマインドを変革することが成功のカギとなります。
5. DevOps実践における障壁:カギは文化変革と環境づくり
ここまでDevOpsのメリットと導入までのステップをご紹介してきましたが、導入や実践は一筋縄では行かないケースも多く、以下のような障壁が存在します。
- 文化変革の難しさ
DevOpsは単にツールの導入やプロセスの変更以上のもので、組織全体の文化変革が必要になります。従来の作業方法や思考パターンからの脱却が求められるため、チームや個人の抵抗に直面することもあるかもしれません。組織全体がこの新しいアプローチを受け入れ、実践するまでにはある程度の時間と労力を見込んでおく必要があるでしょう。
- 専門人材の確保
DevOpsの成功には、開発、運用、品質保証の各分野にわたる高度な技術知識と経験が必要です。適切なスキルセットを持つ人材を確保することが課題となる場合があります。
- セキュリティリスク
自動化に伴う弊害として、セキュリティ面のリスクを伴うこともあります。特に、デプロイメントプロセスは、自動化によりセキュリティチェックが十分に行われないまま進行する可能性があります。このような事態を避けるためには、チーム全体でセキュリティ意識を高める教育やトレーニングを実施することなどが効果的です。
- 変化に対する適応
継続的な変化と改善を求めるため、プロジェクトやチームは常に進化する環境に適応し続けなければなりません。これは、特に変化に対して保守的な組織や個人にとってはストレスの原因となり得ます。
6. DevOpsの導入が効果を発揮する組織の特徴
前述のような障壁がありながらも、DevOpsの導入は様々な組織で有効な手段になりえます。特に、迅速なイノベーションと効率的なシステム運用が求められる環境では、その価値を最大限に発揮します。以下のような組織は、DevOps導入の効果は大きいと言えるでしょう。
- 複数の部門が連携して作業を進める組織
大規模な企業や複数の部門が連携してプロジェクトを進める必要がある組織においては、DevOps導入は部門間のコミュニケーションと協力関係の強化につながります。これにより、プロジェクトの透明性が向上し、開発と運用のギャップを減少させることができます。
- 頻繁なフィードバックを受けて改善を続ける組織
顧客からのフィードバックを素早く製品に反映させたい組織にとって、DevOpsは理想的なアプローチです。継続的なフィードバックループを通じて、製品の質を持続的に向上させることができます。
- 市場への迅速なリリースが求められる組織
競争が激しく、イノベーションが持続的に必要とされる市場では、DevOpsを採用することで開発サイクルを短縮し、より早く市場に製品を投入することが可能です。これにより、競争優位性を維持しながら顧客満足度を向上させることができます。
- セキュリティとパフォーマンスを重視する組織
DevOpsはセキュリティの統合を促進し、セキュリティ対策を開発の初期段階から組み込むことを可能にします。これにより、リリース後のセキュリティ問題を減少させ、継続的なセキュリティ強化を実現します。
- 技術依存度が高い組織
ソフトウェアやデジタルサービスが主要な製品またはサービスの一部である企業には、DevOpsの導入が特に効果的です。たとえば、テクノロジー企業、金融サービス、ヘルスケア、小売り、メディアなどが挙げられます。これらの業界では、市場の変動に迅速に対応し、顧客の期待に合わせて製品を頻繁に更新する必要があります。
- スケールアップを目指すスタートアップ
成長期のスタートアップや小規模企業では、限られたリソースで最大の成果を出すことが求められます。DevOpsは、効率的なリソースの利用とプロセスの最適化を促進することで、スケーラビリティと柔軟性を高めます。
こういった特徴を持つ組織は、DevOpsを導入することで多大なメリットを享受する可能性が高いと言えます。皆さんの組織ではDevOpsの導入がメリットをもたらすと言えそうでしょうか?もし上記にあてはまるかどうか分からないという場合には、現状の開発体制における課題を洗い出してみるのもいいかもしれません。
7. まとめ
- DevOpsはソフトウェア開発のプロセスをスムーズにし、開発と運用の間の壁を取り払うことを目的としたソフトウェアの開発手法。
- 導入することで開発速度の向上、エラーの減少、フィードバックループの短縮、そして開発と運用のギャップ解消など、多くのメリットがある。
- 一方、DevOpsの成功には組織全体での文化変革など様々な障壁も存在する。
- 導入する際には、自らの組織がDevOpsに適しているかどうかを見極めること、そしてDevOpsの手法がしっかりと定着するよう、組織全体で長期的に環境を構築していく必要がある。
DevOpsは従来の開発手法における課題を解決に導く合理的な手法である一方で、なぜその課題が存在してきたのかという根本的な問題にも今一度目を向ける必要がありそうです。根本的な問題を理解したうえでDevOpsを導入することができれば、定着までの期間が早まり、素早い効果が期待できるのではないでしょうか。
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