2024年8月20日

AI・xR

誰も教えてくれないAIプロジェクトの真実。最初にすべき「補正」とは?

Kazuyuki Yoshizawa

期待に応えられずPJが失敗に終わったケース3選

失敗例1:製造業の品質管理自動化

とある製造業でのAIプロジェクトでは、製品の品質管理を自動化することを目指していました。経営層は、市場での競争力を維持し、顧客満足度を最大化するために、AIによるほぼ完璧な精度の不良品検出を期待していました。彼らは、最新のAI技術が任意の誤差を許容しない高精度の品質検査を実現できると信じていました。しかし、技術者たちはこの高い期待に懸念を抱えており、利用可能なデータの質や量、AIモデルの制約により、完璧な精度は現実的ではないと考えていました。プロジェクトは進むうちに、技術的限界と経営層の期待のギャップにより、結果として無駄な予算を消費してしまいました。

失敗例2:小売業の顧客行動予測

とある小売業のAIプロジェクトでは、店舗スタッフと本部スタッフ間のコミュニケーションの不一致により失敗しました。本部の分析チームは、データドリブンなアプローチで顧客の購買行動を予測し、在庫管理を最適化することを期待していました。しかし、店舗スタッフは、顧客行動の多様性と予測の不確実性を理解しており、AIの予測結果に懐疑的でした。結局、予測モデルは実際の顧客行動の複雑さを捉えきれず、在庫不足や過剰な在庫といった問題を引き起こしました。これは、データの質と量の問題、さらには現場の実情を理解していないAIの適用によるものでした。

失敗例3:建設業界のプロジェクト管理自動化

とある建設企業でのAIプロジェクトは、プロジェクトのスケジュール管理とリソースの割り当てを自動化することを目指していました。本部のプロジェクトチームは、AIが複雑な建設プロジェクトのタイムラインを最適化し、コスト削減と効率的なリソース管理を実現できると考えていました。彼らは、AIによるデータドリブンによるアプローチが、従来の手法よりも優れた成果をもたらすと期待していました。


しかし、現場の建設マネージャーや作業員はこの新技術に懐疑的でした。彼らは、建設プロジェクトの複雑性や予測不可能性、そして現場の独特な事情をAIが適切に理解し処理できるとは考えていませんでした。実際に、AIモデルは標準化されたデータと予測可能なシナリオに依存していたため、現場の変動や突発的な問題に対応できず、計画の遅延やリソースの不適切な配分を引き起こしました。


さらに、プロジェクトの進行中に、AIシステムの限界と現場作業員の専門知識の必要性が明らかになり、多くの調整と手動介入が必要となりました。これにより、プロジェクトのコストが予算を超過し、期待された効率化は実現しませんでした。この失敗は、AIの適用に対する現場の懐疑的な見解と、プロジェクトチームの過度の期待が原因で、結果として顧客の不満や信頼度の低下を招いてしまいました。

なぜ失敗したのか

失敗の原因

これらのAIプロジェクトの失敗の背景には、
ステークホルダー間の期待値の違いが深く根ざしています
これらのケースでは、ステークホルダー間の期待値のズレがプロジェクトの進行に深刻な影響を及ぼしました。

AIのプロジェクトはなぜ失敗するのか?

AIプロジェクトの失敗は、多くの場合、ステークホルダー間の期待値の相違、コミュニケーションの欠如から生じます。経営層は時として、AIに対して楽観的な見通しを持ち、高度な問題解決能力や劇的な効率化を期待していることがあります。一方、AIのプロジェクトメンバーは、AIの実用性や制約についてより現実的な見解を持っています。これらの異なる期待は、結果としてPMやAIベンダーが、経営層との期待値のギャップを埋めないまま進行してしまったことから発生します。このような状況によって、プロジェクトが紛糾し、最終的に製品やサービスがステークホルダーの期待を満たすことができない状況に陥ってしまうのです。

期待値の補正が不可欠である

AIプロジェクトの成功には、期待値の適切な補正が不可欠です。このプロセスは、AIプロジェクト特有の複雑性と不確実性を考慮する必要があります。

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AIに対する期待値補正

共通認識の形成

・経営層と現場スタッフ間でAIの可能性と限界についての共通認識を形成することが重要です。これは、AIの基本原理、能力、そして適用範囲に関する教育を通じて達成できます。

・実際のプロジェクト事例やケーススタディを共有することで、抽象的な技術の理解を具体化し、実践的な知識を提供することが効果的です。

リアリスティックな目標設定

・目標設定は、AI技術の現実的な適用可能性を踏まえて行う必要があります。これには、技術の限界、データの可用性、処理能力、および期間と予算の制約を考慮に入れることが含まれます。

・目標は明確かつ測定可能であり、定期的にレビューして調整することが重要です。

フレキシブルなプロジェクト管理

・AIプロジェクトはしばしば予期せぬ課題に直面します。このため、プロジェクト管理は柔軟性を持って進める必要があります。

・進行中のプロジェクトに対する定期的な評価と調整を通じて、新たに生じる課題や変化に対応し、目標を適宜更新することが必要です。

オープンなコミュニケーション

・ステークホルダー間のオープンなコミュニケーションは、期待値の補正において中心的な役割を果たします。

・定期的なミーティング、進捗報告、およびフィードバックセッションを通じて、全ての関係者が最新の情報を共有し、互いの見解を理解することが重要です。

リスク管理と透明性の確保

・AIプロジェクトのリスクを事前に特定し、それらに対する対策を計画することが重要です。

・進行中のプロジェクトにおける課題や困難についての透明性を保ち、関係者間で共有することで、信頼と理解の向上を図ります。

これらのステップは、AIプロジェクトの特有の課題に対処し、実現可能な目標に向けたステークホルダー間の期待値を適切に調整するためにとても重要なステップです。期待値の補正は単なる技術的な調整を超え、組織全体の学習と適応のプロセスを含むものなのです。

AIのプロジェクトで最も重要なこと

AIプロジェクトにおける最も重要な要素は、技術そのものではなく、プロジェクトが達成しようとする具体的なビジネス目的や組織的目標の明確化です。多くの場合、組織はAIの技術的な側面に注目しすぎて、なぜその技術を導入するのかという根本的な目的を見失いがちです。しかし、AIは単なるツールであり、それ自体が目的ではありません。

目標を明確にすることは、AIプロジェクトの成功にとって不可欠です。これには、事業の主要な課題を特定し、AIを用いてこれらの課題をどのように解決できるかを理解することが含まれます。例えば、顧客満足度の向上、運用効率の改善、コスト削減、新たな市場機会の発掘などが目標になり得ます。

このアプローチは、AIの導入を目的の一部として位置付けることを可能にし、より効果的なプロジェクト計画と実行を実現します。目的が明確であれば、適切なAIソリューションの選定、リソースの割り当て、期待管理、およびプロジェクトの成果評価が容易になります。

結局のところ、AIプロジェクトの主な目的は、技術を使って何かを「する」ことではなく、組織の重要なニーズや目標を「達成する」ことにあります。この理解があれば、AIはその真の価値を発揮し、組織にとって真に意味のある変化をもたらすことができます。

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AIは目的ではなく手段である

AIのイメージを抽象的のままにしないこと

AIプロジェクトの成功は、技術の導入以上の深い洞察と計画を必要とします。主要な要因としては、ステークホルダー間の期待値の相違、コミュニケーションの不足、そして柔軟で現実的な目標設定の必要性が挙げられます。

まず、プロジェクトの失敗例を見ると、経営層と現場スタッフ間、または消費者とプロジェクトメンバー間でAIに対する期待値に大きなズレが存在し、これがプロジェクトの紛糾や資源の無駄遣いに繋がったことは明らかです。期待値の補正とは、全ステークホルダーがAIの実際の能力と限界を理解し、現実可能な目標を設定するプロセスを意味します。これには、教育、オープンなコミュニケーション、そしてプロジェクトの進行に合わせた柔軟な調整が不可欠です。

また、AIプロジェクトにおいて最も重要なことは、「AIで何をすべきか」ではなく、「何をしたいのか」という観点からプロジェクトを考えることです。AIは目的達成の手段であり、その導入はビジネスや組織の根本的な目標に寄与するものでなければなりません。目標が明確であれば、適切なAIソリューションの選定、リソース配分、期待管理が容易になり、プロジェクトの成功確率が高まります。

結局のところ、AIプロジェクトは単に技術的な試みではなく、組織のビジョンと戦略に基づいた包括的な取り組みであるべきです。このアプローチにより、AIはその真の価値を発揮し、組織にとって意味のある成果をもたらすことができます。

さいごに

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Kazuyuki Yoshizawa

Kazuyuki Yoshizawa

フリーライターからキャリアを始め、創刊雑誌の初代編集長を務める。その後広告代理店でクリエイティブディレクターを経験した後、外資系MarTech企業(現Cheetah Digital社)に転職。ビジネスアーキテクトとして新規事業開発やマーケティングなどに従事。その後独立し、個人でSaaS企業の事業コンサルティングを行う傍ら、ニューヨーク発のIT企業MovableInkの日本進出支援、Repro株式会社にてCBDOなどを歴任。20年6月からは台湾発AIテックスタートアップのawooにジョインし、日本市場開発責任者として日本法人awoo Japanの立ち上げとグロースを成功させる。21年スタートアップピッチアジェンダ最優秀賞、22年繊研新聞主催ファッションECアワード受賞。23年2月より株式会社アイスリーデザインにCPO兼CMOとして参画。

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