DX推進の最前線で活躍する企業に、DXの進め方や今後の展望などをお伺いするDX推進企業スペシャルインタビューの第一弾。今回は、株式会社ELYZA(イライザ) CMOの野口竜司さんに話題の大規模言語モデル(LLM)を活用することで、企業のDX推進にどのような影響を与えるのか、また生成AI導入においてつまづきやすいポイントについてインタビューしました。インタビュアーは、数々のSaaS製品の立ち上げやグロースを成功させ、現在は株式会社アイスリーデザインでCMOを務める吉澤和之。
野口竜司氏について
大学時代からITベンチャーでAIプロジェクトに携わり、その後ZOZOグループにてVP of AI driven businessや取締役CAIOを歴任。2022年4月に東大松尾研究室発のAIカンパニー、ELYZAのCMOに就任。大企業でのAI戦略/企画策定やAIプロジェクト推進を多数リードしてきた経歴をもつ。ここ数年はAIの社会実装をキャリアのコンセプトとしており、日本ディープラーニング協会や金融データ活用推進協会でも活躍するかたわら、著書を通じてAI人材育成にも貢献している。
目次
ELYZAってどんな会社?
公式サイト:ELYZA
吉澤:まずは、御社の事業内容をおしえていただけますか?
野口:ELYZAは、東京大学の松尾研究室からスピンアウトしたAIカンパニーになります。グローバルレベルに匹敵するような性能の日本語LLMを研究開発して、社会実装させることを目指しています。
松尾研究室とは?
東京大学の松尾研究室は、AI分野で国内外から高い注目を集める最先端の研究拠点。ディープラーニングを中心としたAI技術の研究開発、社会実装、人材育成の3つのミッションを掲げ、総合的にAI技術の発展と普及に取り組んでいます。大規模言語モデルや運動系AIなど最先端の研究プロジェクトを推進し、世界的に著名なAI研究者との共同研究も行っています。また、AI技術を活用したスタートアップの創出や、実践的なAI人材の育成にも力を入れており、日本のAI研究の最前線として高い評価を受けています。
最近のトピックで言うと、今年の4月にKDDIと資本業務提携を結びました。KDDIが持つ大きなインフラの力や社会とのつながりを活用して、より一層、生成AIを世の中に広く浸透させていきたいと思っています。
吉澤:今後KDDIのアセットを活用して、どのような取り組みが行われていくのか楽しみですね。
野口:そうですね、まだ公表できる情報は少ないのですが、順次プレスリリースで今後の取り組みを発信していきます。
▼KDDIとの取り組みに関する、最新のプレスリリースはこちら
野村総合研究所、ELYZA、KDDIは法人向けの生成AIソリューション提供に向けて協業いたします
吉澤:現在メインで取り扱っているサービスはどのようなものですか?
野口:研究開発したAIをベースにした、独自専用モデルの共同開発や、業務やサービスにおけるLLMの実用化をメインにおこなっています。また、AI SaaS製品の活用というところにも今後力を入れていく予定です。
吉澤:RinnaやOpenCALMなどの他のLLMサービスとの差別化ポイント、御社のバリューが発揮されるポイントはどのような点ですか?
野口:ChatGPTの登場以前から日本語における自然言語モデルを作ってきたので、自然言語に関するノウハウは蓄積されています。GPT-4(0613)の性能に並ぶ日本語LLMモデルを提供できていると思っており、その性能の高さは弊社の強みと言えます。
日本語LLMモデル生成の難しさ
日本語は、語順の自由度の高さや文字の種類の多さなど、他の言語と比較して複雑な言語構造になっています。また、単語の意味が文脈によって大きく変わったりするため、生成AIで正確に文脈を理解し、適切な文章を生成することが難しいと一般に言われています。
ELYZAは日本語LLMモデルの生成という難題に対して、以下のようなアプローチで研究開発を続けてきました。
”ELYZA では、より良い日本語性能を持つLLMを開発する方法論として、事前学習済みのオープンモデルに対して日本語で追加の学習を行う取り組みを継続的に行ってまいりました。その知見を活かし、今回の「Llama-3-ELYZA-JP」シリーズにおいても、最新のオープンモデルである「Llama 3」シリーズに対して日本語の追加事前学習と事後学習を行うことで、高性能な日本語モデルを開発しました。”
(ELYZA公式のnote記事より引用:「GPT-4」を上回る日本語性能のLLM「Llama-3-ELYZA-JP」を開発しました)
吉澤:なるほど。これまでの研究開発における知見を活かした、高性能の日本語LLMモデルが御社の強みなんですね。では、御社のサービスはどのような顧客の課題を解決できるものなんでしょうか?
野口:ホワイトカラー業務全般の生産性を上げるというのがLLMが実現できることです。例えば、原稿作成、契約書対応など多岐にわたる業務をサポートすることができます。
吉澤:ホワイトカラー業務全般をサポートするということですが、御社のサービスを利用されるお客さまの特徴はありますか?
野口:たくさんのスタッフが大量の仕事を抱えている企業・業界が多いです。例えば、金融系・人材系のお客さまです。
吉澤:そういった業界のコンタクトセンター、コールセンターなどでしょうか?
野口:そうですね。コールセンターなどお客様との対話量が多い現場は親和性が高いです。
これまでELYZAが顧客課題を解説してきた豊富な実績例はこちらからご覧いただけます。
吉澤:大幅な工数削減が実証されていたりと、生成AIのビジネスへの活用の可能性が証明されているんですね。さまざまな活用シーンがありそうですが、目的は業務効率化でしょうか?
野口:そうですね。もともとのお客様から依頼いただく課題も業務効率化になるので、そこを生成AIでどう解決するかを提供価値と位置づけています。
生成AIを取り巻く環境と今後の展望
吉澤:生成AIを取り巻く昨今の状況については、どのように考えていますか?
野口:生成AIのモデルが一社一択ではなく、用途に合わせて選択できるようになったというのが大きな生成AI周りの変化ではないでしょうか。ChatGPTだけでなく、Googleのモデルや弊社のような国産のモデルなど、GPT-4(0613)を超える性能、業務利用上十分な性能のモデルをいろんなプレイヤーが出してきている印象です。
吉澤:そのような変化を、生成AIモデルを開発する一企業として御社はどう捉えていますか?
野口:生成AIはどこか一社が独占するようなものではなく、社会インフラの一種として扱われるべきだと思っています。
吉澤:多数の企業が生成AI事業に参入し、誰もが活用できるような技術になっていくことが予想されますが、今後生成AIはどのように活用されていくと思いますか?
野口:検索に代わる情報探索の体験を生成AIは作り出していくと思います。私も実際に検索エンジンの代わりに生成AIをよく活用するのですが、ハルシネーションをおさえるようにプロンプトを入れて、引用元を出してもらう。そうすると情報が再編集されて届く。こんな感じで検索の代替として生成AIは活用されていくと思います。
また、Alexaなどの声で反応するVUI(Voice User Interface)は生成AIと組み合わせることによって本格的に浸透していきそうだなと感じています。いろんなデバイスの操作が生成AIを活用することで可能になっていくと思います。
吉澤:UXとも大きく関わってきますよね。これまでの検索という行為は自分で探す意味合いが強かったですが、これからの時代、AIが空気を読んで情報を探索してくれるようになるわけですね?
野口:そうですね。検索体験の仕組みがガラッと変わっていくと思います。
企業の生成AI活用におけるポイント
吉澤:生成AIの活用を考えている事業会社がつまづくポイントはどこになりますか?
野口:企業における生成AIの活用方法は3種類あります。1つ目は個人業務での利用、2つ目は組織内での業務フロー上の利用、そして3つ目は顧客サービス向けの利用です。
まず、個人業務での利用においては、生成AIの利用を定着させることに苦戦する企業が多いです。生成AIをあたりまえに使う空気感・文化形成が必要になります。
次に組織内の業務フローを変化させるために生成AIを活用する場合。既存の業務フローががちがちに固まっていると、生成AIを業務フローの一部に置き換える余地がなくなってしまいます。また、AIの精度に過度の期待を持ってしまうことも、既存のフローを置き換えづらくする原因です。AIには多少の不確実性があることを理解し、精度を正しく把握して、新しくフローをつくる気持ちで進めることが状況を打開するヒントになります。
最後に顧客サービス向けの利用においては、ハルシネーションなどのリスクを懸念して、日本企業は利用に慎重になっていると感じますね。
吉澤:これから生成AIを試そうとする企業がまず取り組むべき最初のステップはなんでしょうか?アドバイスをお願いします。
野口:AIを使いこなせるビジネスパーソン、いわゆる生成AIネイティブな人材をインハウスに見出すこと。そしてその方を適切なポストに置くことが重要です。
日々ものすごいスピードで進化していく生成AI技術の流れを汲み、自社のコアな課題にどのタイミングでその技術をぶつけるかを理解している人材がいるかどうか。
そのためには、早々に社内で、生成AI活用の文化を形成しておくことが大切です。来たるべき本格的な生成AIの活用に今から備えていただきたいと思います。
吉澤:生成AIのビジネスでの利用においては、生成AIへの正しい知識と生成AI活用があたりまえとなるような文化形成がポイントになるんですね。今後生成AIを取り入れようとしている企業の方は、ぜひ参考にしていただければと思います。
セミナーのご案内
株式会社アイスリーデザインでは、株式会社ELYZA CMOの野口竜司さんと脳科学者の茂木健一郎さんをお迎えして、パネルディスカッション形式のセミナーを開催いたします。
今回のインタビューでは、生成AIの日本語LLMモデルを研究開発する、生成AI分野の最先端企業ELYZAの野口さんに、生成AIでできることやビジネスでの活用の可能性についてお話を伺いました。
生成AIはその仕組み上、脳科学と非常に深い関わりがあります。両分野のプロフェッショナルの観点から生成AIについて議論、解説していただき、生成AIがビジネス戦略においてどのようなインパクトをもたらすのかを解き明かしていきます。
生成AIを取り入れる企業が増えてきているものの、自社でどのように活用できるのかわからない、まずは生成AIを仕組みの部分から理解したいという方には、新たな知見や生成AI活用のヒントにしていただける内容となっております。
申し込み人数に限りがございますので、ご興味のある方はぜひお早めにお申し込みください!
セミナーへの参加をご希望の方は、こちら
【セミナー概要】
セミナータイトル:「生成AIと脳科学が変えるビジネス戦略 ~未来の知能を解き明かせ~ 」
日時:2024年9月10日(火)17:30-18:30
場所:株式会社アイスリーデザイン 社内セミナースペース
東京都港区赤坂八丁目1番22号NMF青山一丁目ビル3階
東京メトロ 銀座線/半蔵門線 都営大江戸線 青山一丁目駅 徒歩4分
※オンライン開催はございませんので、ご注意ください。
参加費用:1000円
【登壇者】
脳科学者 茂木健一郎
株式会社ELYZA CMO 野口竜司
株式会社アイスリーデザイン CMO 吉澤和之
※セミナー終了後30分程度、登壇者との交流が可能となっております。
お申し込みはこちらから
【野口さん著書のご紹介】
0から生成AIの活用を考えている方には、野口さんが執筆されたこちらの本がおすすめです。文系人材でもAIを操ることができる。その具体的な方法が解説されています。学生から経営者まで幅広い層に読んでいただきたい1冊です。