2024年9月3日

ビジネスストラテジー

新時代の消費動向:トキ消費とマーケティングへの影響

Kazuyuki Yoshizawa

トキ消費を整理する

「トキ消費」とは、その時その場でしか味わえない独特な体験や盛り上がりを重視する新しい消費スタイルです。博報堂生活総合研究所が2017年に提唱したこの概念は、消費者行動の歴史的な変遷に根差しています。

時代背景と顧客体験の変化

  • 1970〜80年代(モノ消費):この時期は物質的所有を重視する時代でした。消費者は新しく、珍しいモノを持つことに価値を見出し、それが社会的ステータスの象徴とされていました。

 

  • 1990年代(コト消費):時代が変わり、モノが豊富になると、消費者の関心は物質的所有から心に残る体験へと移り変わりました。この時代は、新しいコト、珍しいコトの体験が価値とされ、体験型の消費が活性化しました。

 

  • 2010年代(トキ消費):さらに進化した消費者の関心は、特定の時と場所における体験に集中しました。この時代の始まりは、ソーシャルメディアの浸透と関連しています。人々は、その瞬間にしか体験できないイベントや活動に魅力を感じ、非再現性、参加性、貢献性という3つの要素を重視するようになりました。この変化は、デジタル化の進展と相まって、人々がリアルな体験や共有体験をより求めるようになった結果です。

 

トキ消費は、単なる物質的所有や単独の体験を超え、特定の時間と場所で共有される集合的な経験を価値として捉えています。これは、現代の消費者が求める「その瞬間にしか味わえない非常に個人的でありながらも共有される体験」という新しい顧客体験への移行を示しています

トキ消費の事例

1. オンラインイベント

  • 背景:コロナ禍は多くのイベントや活動をオンラインへと移行させました。これにより、オンラインライブやセミナー、会議などが新たな注目を集めました。

 

  • 特徴:オンラインイベントはアクセスの容易さが最大の特徴です。地理的な制約がなくなることで、より多くの人々が参加可能になりました。

 

  • 影響:コロナ禍を機に、イベント主催者はオンライン化による新たな可能性を発見しました。参加者は自宅からでも、その時その場での体験を楽しめるようになり、参加の敷居が大きく下がりました​​。

 

2. 体験型サービス

  • 具体例:あるアパレルメーカーは、子供向けに「一人での服選び体験」サービスを提供しました。

 

  • 目的:このサービスは、子供たちにファッションにおける独立性と自己表現の重要性を教えることを目的としています。

 

  • 経験の価値:この体験は、子供たちにとって人生で初めての独立した決断の一つとなり、自信と満足感をもたらす可能性があります。親からのアドバイスやサポートを一切受けずに、自分で服を選び、試着することは、子供たちの成長過程において重要な一歩となります​​。

 

3. 限定販売のグッズ

  • 実施方法:特定のライブ会場でのみ販売される限定グッズは、トキ消費の非常に良い例です。

 

  • 非再現性:これらのグッズは、そのライブやイベントに参加した人だけが手に入れることができるため、非再現性が高いです。

 

  • 参加者の体験強化:限定グッズは、参加者にとって特別な記念品となり、イベント体験をより記憶に残るものにします。また、ファン同士のコミュニティ感を強化し、独自の文化を作り出す要因ともなります​​。

 

これらの事例は、トキ消費がいかに現代のマーケティング戦略において重要な役割を果たしているかを示しています。それぞれの事例は、消費者が単に商品やサービスを購入するだけでなく、その瞬間の体験や記憶を大切にする傾向を反映しています。

トキ消費の統計データ

トキ消費の流行

  • 流行の実感:「トキ消費は流行している」と答えた人の割合は全体で32.6%です。これは、消費者の約3分の1がトキ消費の流行を認識していることを示しています。

年代別の実感

  • 20代の実感:特に20代では、46.9%の若者がトキ消費の流行を実感しています。これは、全体平均の約1.5倍であり、20代の若者がこの消費形態に特に敏感であることを示しています。

 

  • その他の年代:30代の実感度は34.1%、40代は30.9%、50代は28.3%、60代では25.8%となっており、年代が上がるにつれてトキ消費への認識は減少していることが分かります。

 

性別の違い

  • 女性の認識:トキ消費に対する認識は性別によっても差が見られます。女性は36.1%がトキ消費の流行を感じており、男性(29.1%)よりも高い割合となっています。

 

消費の将来的展望

  • 将来的な展望:さらに、「これから世の中で広がっていくと思う消費形態」という質問に対して、トキ消費は36.1%の支持を受けており、コト消費(37.3%)に次ぐ高い割合を示しています。特に女性と20〜40代ではトキ消費がトップに立っており、特に若い世代や女性の間で将来的な拡大が予想されます。

 

トキ消費への参加意向

  • 20代の参加意向:トキ消費への参加意向を牽引する20代では、「フェス」への参加意向が32.9%と最も高く、全体平均(23.1%)を大きく上回っています。また、「体感型ゲーム」への意向も20代では27.6%、全体では15.1%となっています。

 

このデータは、トキ消費が特に若年層において強い影響力を持ち、性別や年代によって消費行動に顕著な差があることを示しています。特に20代ではトキ消費への関心が高く、彼らが今後の消費トレンドを形成する重要な役割を果たす可能性があります

生活者調査でみる【トキ消費

トキ消費をマーケティングに活用する事例

1. 新しいトキを作り出す

  • アプローチ:新しい習慣やイベントを作り出し、それに合わせて消費を促す戦略です。

 

  • 具体例:「愛妻の日」のキャンペーンがこのアプローチの良い例です。日本愛妻家協会は1月31日を「愛妻の日」と定め、特定の日時(午後8時9分)に夫婦でハグをするなど、特定の行動を提案しました。このように、特定の日に特定の行動を促すことで、一時的ながらも消費活動を刺激することができます​​。

 

2. モノ・コトとトキを循環させる

  • アプローチ:モノやコトの消費をトキ消費に結びつけ、相互に活性化させる戦略です。

 

  • 具体例:ライブイベントでの限定グッズ販売がこのアプローチに当てはまります。例えば、ミュージシャンの全国ツアーで、その会場でのみ販売される一夜限りのグッズを提供することで、モノの消費をトキ消費に結び付け、ファンの期待を高めることができます​​。

 

3. オンライン化を活用する

  • アプローチ:デジタル技術を利用して、オンラインでの特別な体験を提供する戦略です。

 

  • 具体例:「オンラインダイニング」はこのアプローチの一例です。参加者が同じ飲食店から食材を取り寄せ、決まった日時にオンラインで食事会を開催します。このイベントでは、料理人や生産者も参加し、食材の背景や料理のヒントを提供することで、参加者は自宅からでも特別な体験を楽しむことができます​​。

 

これらの事例は、トキ消費の概念をマーケティングに統合し、消費者の体験を深化させるための方法を示しています。特に、特定の瞬間や体験を重視するトキ消費は、消費者に新しい価値観を提供し、ブランドの忠誠心を高める機会を創出します。

トキ消費の全体像とその意義

トキ消費は、モノやコトに続く新たな消費潮流として、現代社会で急速に注目を集めています。この消費形態は、その時その場でしか得られない非再現性の高い体験を中心に据え、消費者の感情や記憶に深く訴えかけることを特徴としています。

トキ消費の特徴と重要性

  • 非再現性と独自性:トキ消費は、一度きりのイベントや体験に価値を見出します。これにより、消費者はその瞬間にしか得られないユニークな体験を追求するようになりました。

 

  • 若年層の関心:特に20代を中心とした若年層において、この消費スタイルは大きな人気を博しています。若者たちの間で、共有体験や独特のイベント参加が社交活動や自己表現の重要な要素となっています。

 

  • デジタル時代の影響:デジタルメディアとソーシャルネットワーキングの普及は、トキ消費の成長を加速させました。これにより、オンラインとオフラインの境界が曖昧になり、新たな消費体験が生まれています。

 

マーケティングにおけるトキ消費の活用

  • 消費者関係の再定義:トキ消費を取り入れたマーケティング戦略は、ブランドと消費者との間に新たな関係を築く可能性を持っています。消費者はもはや単なる商品の購入者ではなく、ブランドとの共創者、体験の共有者へと変化しています。

 

  • 新しい価値提供の機会:ブランドは、限定的なイベントや独自の体験を通じて消費者に新しい価値を提供することができます。これにより、ブランドへの忠誠心や顧客満足度を高めることが可能になります。

 

トキ消費は、単なる消費の形態を超え、現代消費者の価値観やライフスタイルを反映する重要な指標となっています。企業やブランドがこの潮流を理解し、活用することで、より深い顧客関係の構築とビジネスの成長が期待されています。

さいごに

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Kazuyuki Yoshizawa

Kazuyuki Yoshizawa

フリーライターからキャリアを始め、創刊雑誌の初代編集長を務める。その後広告代理店でクリエイティブディレクターを経験した後、外資系MarTech企業(現Cheetah Digital社)に転職。ビジネスアーキテクトとして新規事業開発やマーケティングなどに従事。その後独立し、個人でSaaS企業の事業コンサルティングを行う傍ら、ニューヨーク発のIT企業MovableInkの日本進出支援、Repro株式会社にてCBDOなどを歴任。20年6月からは台湾発AIテックスタートアップのawooにジョインし、日本市場開発責任者として日本法人awoo Japanの立ち上げとグロースを成功させる。21年スタートアップピッチアジェンダ最優秀賞、22年繊研新聞主催ファッションECアワード受賞。23年2月より株式会社アイスリーデザインにCPO兼CMOとして参画。

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