2024年9月13日

ビジネスストラテジー

顧客の「印象」を定量化するブランドアーキタイプによるマーケティング戦略とは

Kazuyuki Yoshizawa

ブランドアーキタイプとは

ブランドアーキタイプは、企業や製品が持つ独自の「人格」を形成し、顧客との深い共感を生む効果的なマーケティング手法です。この概念は、スイスの心理学者カール・グスタフ・ユングによって提唱された12の人格に基づいています。それぞれのアーキタイプは、ブランドの「個性」を定量的に分析・評価するための枠組みを提供し、クリエイティブな表現を超えた、消費者にとってのブランドの価値を明確にするのに役立ちます。

12のブランドアーキタイプ

  • イノセント:純粋さや信頼を表すアーキタイプ。例えば、Patagoniaのような環境に配慮した企業がこのカテゴリーに分類されます。

 

  • エクスプローラー:冒険心や自由を追求するブランド。TOYOTAやNASAがこのタイプに該当します。

 

  • セージ:知識と専門性を重視するブランド。テクノロジー企業やコンサルティングファームがこのグループに属します。

 

  • ヒーロー:力強さや挑戦を象徴するブランド。adidasやGoogleなどが例です。

 

  • アウトロー:革新的で反体制的なブランド。NikeやRedbullがこのカテゴリーに含まれます。

 

  • マジシャン:変容や魔法を表すブランド。AppleやSonyがこのアーキタイプを体現しています。

 

  • エブリパーソン:親しみやすさや平凡さを重視するブランド。UNIQLOやMUJIがこのタイプに分類されます。

 

  • ラバー:情熱や洗練を表すブランド。高級ファッションブランドがこのグループに属します。

 

  • ジェスター:ユーモアや遊び心を大切にするブランド。DisneyやStarbucksが例です。

 

  • ケアテイカー:献身的で思いやりのあるブランド。ヘルスケアやホスピタリティ関連の企業がこのタイプに含まれます。

 

  • クリエイター:創造性と独創性を重視するブランド。芸術的な要素が強い企業がこのグループに属します。

 

  • ルーラー:権威や秩序を象徴するブランド。高級車メーカーや高級ブランドがこのタイプに該当します。

 

ブランドアーキタイプの実例と応用

  1. 「イノセント」アーキタイプ:純粋さと誠実さ
  • 事例:The Body Shopは、天然成分を使用し、動物実験を行わない姿勢で知られています。このブランドは、純粋さ、誠実さ、環境と動物への配慮といった「イノセント」の特徴を体現しています。

 

  1. 「エクスプローラー」アーキタイプ:冒険と自由
  • 事例:Jeepは、その頑丈でオフロード指向の車種で知られており、「エクスプローラー」のアーキタイプを反映しています。Jeepは自由と冒険を求める人々を対象に、アウトドアと冒険のスピリットを広告に取り入れています。

 

  1. 「セージ」アーキタイプ:知識と専門性
  • 事例:Googleは、情報へのアクセスを提供し、知識と教育の増進を目指すことで、「セージ」アーキタイプを体現しています。Googleは知識へのアクセスを提供し、常に情報を精確に伝えることに重点を置いています。

 

  1. 「ヒーロー」アーキタイプ:力強さと勇気
  • 事例:Nikeは、スポーツ選手が直面する挑戦を克服することを奨励し、「ヒーロー」のアーキタイプを表現しています。彼らのマーケティングキャンペーンは、勇気と競争力を重視しています。

ブランドアーキタイプ分析(i3DESIGN)

ブランドアーキタイプとマーケティング戦略

これらのアーキタイプは、消費者調査、市場データの分析、ソーシャルメディアの監視などを通じて、定量的に評価することが可能です。例えば、「イノセント」アーキタイプのブランドは、顧客の調査を実施して純粋さや誠実さに対する反応を測定し、それに基づいてブランド戦略を調整することができます。同様に、「ヒーロー」アーキタイプのブランドは、顧客がどの程度そのブランドを力強く感じているかを評価し、その知見をマーケティング戦略に反映させることができます。

ブランドアーキタイプを通じて、企業は自社のブランド個性を明確にし、消費者とのより深い共感とつながりを築くことができます。定量的な分析により、これらのアーキタイプを市場のニーズと合わせて調整し、ブランド戦略を強化することが可能です。このアプローチは、ブランドの価値を消費者に明確に伝え、長期的なブランド忠誠度を構築するための重要な手段となります。

ターゲットユーザーとブランドビジョンのギャップ分析

また、ターゲットユーザーの印象とブランドチームのビジョンのギャップを分析することで、より効果的なコミュニケーション戦略を立てることができます。クリエイティブなデザインやブランド戦略の方向性を定める際に、顧客の印象を定量的に評価する方法としてブランドアーキタイプを活用することが推奨されます。

最近ヒットしているお菓子、不二家の「チョコまみれ」という商品を例に、ブランドアーキタイプの定量評価のステップを示していこうと思います。

「チョコまみれ」はその独特のビジュアルで目を引くデザインが消費者の目を引き、いま大ヒット中の商品です。工場のラインを拡張し、最近増産も決まったようです。これまでの「カントリーマアム」のラインナップからすると想定外のデザインパッケージですが、若年層を中心にこの商品がヒットを続ける理由は、その独特のキャラクターが存在感を示しているからでしょう。

保守的に考えれば、カントリーマアムの新ラインナップを検討するなら、これまでのクラシックなテイストを踏襲して「エブリパーソン」あたりが無難です。しかし、この商品は「ジェスター」を選択しています。このブランドイメージの転換は、きっと大きな選択だったに違いありません。

引用:カントリーマアム チョコまみれ|不二家

チョコまみれのブランドアーキタイプ分析フロー

では、「チョコまみれ」のブランドアーキタイプを特定し分析するフローを紹介します

ブランドアーキタイプの特定

  • 製品分析:まずは「チョコまみれ」の製品特性、デザイン、マーケティングメッセージを分析します。この商品が放つイメージやターゲット顧客からの受け取られ方を考慮に入れます。

 

  • アーキタイプの選定:分析の結果、たとえば「チョコまみれ」が「ジェスター」アーキタイプに該当すると仮定します。このアーキタイプは楽しさ、遊び心、ユーモアを象徴し、若い顧客層に特に人気があります。

 

定量的評価のためのデータ収集

  • 消費者アンケート:顧客の印象を定量化するために、消費者に対するアンケート調査を実施します。製品に関する感情、購入動機、ブランドに対する全般的な印象などを尋ねます。

 

  • 販売データの分析:売上データ、リピート購入率、顧客の購入パターンを分析します。これにより製品の市場での受け入れ度を測定します。

 

データ分析とインサイトの抽出

  • 結果の分析:アンケート結果と販売データを組み合わせ、製品の市場における位置付けや受容度を分析します。たとえば、特定の年齢層や地域での人気度、製品の認知度などを特定します。

 

  • インサイトの抽出:分析から得られたデータをもとに、ブランドアーキタイプに基づいたマーケティング戦略や製品開発の方向性を考察します。例えば、製品が「ジェスター」アーキタイプに適合していることが明らかになれば、よりユーモアや遊び心のある広告キャンペーンを展開することが有効です。

 

継続的な評価と改善

  • KPIの設定:定期的に追跡するための主要業績評価指標(KPI)を設定します。これには、ブランド認知度、顧客満足度、市場シェアなどが含まれます。

 

  • フィードバックループ:市場からのフィードバックを継続的に収集し、製品やマーケティング戦略を適宜調整します。これにより、ブランドアーキタイプの適合性を保ちつつ、市場の変化に柔軟に対応できます。

 

このように、ブランドアーキタイプの定量評価を行うことで、マーケティング戦略の精度を高め、顧客とのより深い関係を築くことが可能になります。ブランドアーキタイプは、製品の個性を際立たせるだけでなく、市場での成功を促進する重要な要素となり得ます。

まとめ

ブランドアーキタイプの活用は、マーケティングとブランド戦略において重要な価値をもたらします。これまで抽象的で主観的な評価の対象であったパッケージデザインやブランドイメージを、ブランドアーキタイプを通じて定量的に分析し評価することが可能になります。この手法は、単にデザインの視覚的魅力に留まらず、消費者の感情や認知にどのように影響を与えるかを理解することを可能にします。

ブランドアーキタイプを用いた定量分析には、以下のような利点があります:

  • 消費者の反応の明確化:特定のアーキタイプに対する消費者の反応を測定し、その結果をブランド戦略に統合することができます。

 

  • 効果的なマーケティング戦略の策定:アーキタイプに基づいた広告やプロモーションは、よりターゲット市場に響くメッセージを伝えることができます。

 

  • ブランド忠誠度の向上:ブランドと消費者との間の深い共感と理解を築くことで、長期的な顧客関係を構築します。

 

これまでの「抽象的に評価されていたパッケージデザイン」を、ブランドアーキタイプを用いて定量的に分析することで、製品の市場におけるパフォーマンスや消費者の認知に対する具体的な理解が可能になります。これにより、ブランドはより戦略的かつ効果的な意思決定を行うことができ、市場における競争力を高めることができるのです。

今回はブランドアーキタイプのマーケティング戦略での活用法をご紹介しました。UIデザインにおける活用法は弊社デザイナーチームが運用するnoteで詳しくご紹介しています。

▼気になる方はこちらからご覧ください。

プロダクトの世界観を統一する!「ブランドアーキタイプ」をUIデザインに活用する方法

さいごに

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Kazuyuki Yoshizawa

Kazuyuki Yoshizawa

フリーライターからキャリアを始め、創刊雑誌の初代編集長を務める。その後広告代理店でクリエイティブディレクターを経験した後、外資系MarTech企業(現Cheetah Digital社)に転職。ビジネスアーキテクトとして新規事業開発やマーケティングなどに従事。その後独立し、個人でSaaS企業の事業コンサルティングを行う傍ら、ニューヨーク発のIT企業MovableInkの日本進出支援、Repro株式会社にてCBDOなどを歴任。20年6月からは台湾発AIテックスタートアップのawooにジョインし、日本市場開発責任者として日本法人awoo Japanの立ち上げとグロースを成功させる。21年スタートアップピッチアジェンダ最優秀賞、22年繊研新聞主催ファッションECアワード受賞。23年2月より株式会社アイスリーデザインにCPO兼CMOとして参画。

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