2024年9月30日

ビジネスストラテジー

【有料級】データドリブンカルチャー形成までの3つのプロセス~導入期・拡大期・浸透期~(DXセッション後編)

アイスリーデザインでは2024年5月14日(火)~6月13日(木)の期間、「DXブートキャンプ5days」を開催し、合計5日間にわたりオンラインセミナーを行いました。

この記事は、5日間にわたるイベントのDay2、株式会社MJ 代表取締役の宮野淳子さんをお迎えしたキーノートセッション【データドリブン経営でUXを高めLTV向上を目指す】の内容を再編集したものの後編になります。

▼前編はこちら

【有料級】データドリブンはなぜ重要か?その理由と具体的な進め方(DXセッション前編) | in-Pocket インポケット

前編ではDX推進のためのビジネス戦略策定において、顧客体験を軸としたデータドリブンな考え方がなぜ重要なのか、自社の成長を加速させるためには、どのような具体的かつ実践的なアプローチをしなければならないのかを元GODIVA最高デジタル責任者、現MJ代表 宮野さんの豊富な経験と実績を基に語っていただきました。

後編ではデータドリブンカルチャーが社内で形成されるまでの3つのプロセス、データドリブン経営を進めていく上で起こりがちな課題とその解決方法、おすすめの対応順序を、宮野さんと株式会社アイスリーデザインでCMOを務める吉澤和之との対談形式でご紹介していきます。

※宮野さん、吉澤のプロフィールは前編に詳細を記載させていただいております。気になった方はこちらをご覧ください。

▼こんな方におすすめ

  • デジタル活用の推進をしたい経営者や役員の方
  • システム導入ありきではなく、LTV(顧客生涯価値)の最大化をしたい方
  • 顧客中心のアプローチを強化するための、実践的な方法論や戦略を知りたい方
  • ビジネスの意思決定にデータを活用し、より精度の高い戦略を立てたい方

1. データドリブンカルチャー形成までの3つのプロセス~導入期・拡大期・浸透期~

吉澤前半では、宮野さんにデータドリブンが重要視される背景やデータを用いてどうマーケティング戦略を組み立てていくかという具体の部分をお伺いしました。皆さんご存じの通りかと思いますが、データドリブンは社内で散らばったデータを一元管理し、データを有効に活用する必要があるため、組織全体で取り組まなければなりません。つまり、組織内で少しずつカルチャーを形成していく必要があります。

データを蓄積・分析してインサイトを考え、カスタマージャーニーを設計していくなかで、どうしてもノウハウと経営視点の両方が必要になります。ただ、現場でやっていることと経営の目線というのは少しずつギャップが生まれるものなので、チューニングをしていかないと中長期的な価値の最大化が難しくなります。

フェーズ1 導入期

吉澤例えば、データドリブンを導入期・拡大期・浸透期の3つのフェーズに分けた時に、どこかで必ず最初のきっかけや種になることが生まれているはずで、導入期の始まりにはファーストペンギン(※)が現れるという段階があります。現状自社でDXがなかなか進んでいないと思っていたとしても、どこかの部門あるいは担当者ベースでDXを推進していこうという意識を持っている人が必ずいるはずなんです。その種は絶対に無くしてはいけないし、そのまま維持していく必要があると思っています。最初にある担当者、ある部門でやろうとしているその取り組みは、経営として必ず積極的にやらせていくという意識が何よりも重要です。

(※)ファーストペンギンとは?

元々、集団で行動するペンギンの中で、最初に海に飛び込む勇敢な個体のことです。ビジネス文脈で使用される際は、リスクを恐れず新しい分野に挑戦する人々を指します。

データ分析をして、そこからインサイトを発見するプロセスがサイロ化(※)してしまうことはあるんですが、その部門の中でやるべきことをしっかりとPDCAを回す、要はデータを見てインサイトを発見するというカルチャーをどんどんボトムアップで作っていくべきだと思っています。ボトムアップ型とトップダウン型で会社によってカルチャーは違うと思いますが、企業風土がボトムアップ型である場合は、この始まりのきっかけとなる種を見つけて、その種が消えないようにしっかりと維持してカルチャーを作っていくという流れが必要になってきます。 

(※)サイロ化とは?

サイロ化とは、組織内の部門やシステムが互いに孤立し、情報やリソースの共有が十分に行われていない状態を指します。サイロ化を解消するには、部門間のコミュニケーション促進、システムの統合、データの一元管理などの対策が必要です。これにより、組織全体の効率性や生産性の向上、データの有効活用が期待できます。

フェーズ2 拡大期

吉澤続いて拡大期に入っていきます。1つの成功例をどんどん組織に拡大させていくフェーズです。重要なのは、顧客中心主義の文化を作るということ、ユーザーのインサイトを徹底して深堀りしていくというカルチャーをいかに作れるかだと思うんですね。それがないと、せっかく収集したデータの価値がどうしても薄くなってきてしまうので、データの重要性を理解していくためにはやはり顧客中心であるべきだと思っています。このような考え方をしっかり軸に添えた、ミドルマネジメント(※)がいかにできるかというのが拡大期のフェーズでは重要になります。

(※)ミドルマネジメントとは?

組織の中間管理職を指し、トップマネジメントと現場の間に位置し、経営方針を理解して現場に浸透させる役割を担います。部門やプロジェクトの管理、部下の育成、上層部の意思決定支援などが主な職務です。

フェーズ3 浸透期

吉澤最後のフェーズは浸透期です。どこを浸透期とするかというのはあるんですが、とにかく 導入期、拡大期で進めてきた事例を一つの部門、一つの組織だけで終わらせない、他の部門へどんどんどんどん横展開していくという社内啓蒙が必要になってきます。

ここで結構課題になってくるのが、ビジネス部門とIT部門の意思疎通が難しいというケースです。投資対効果の問題だと思うのですが、 例えばデータドリブンやマーケティングの考え方が情報システム部門や開発部門になかなか伝わらない。そうすると「なんでこれやっていく意味があるんですか?」みたいな感じで、関係性がバチバチしてしまうというのはあるあるかなと思っています。

その時にどの部門に対しても、しっかりとその取り組みの重要性を社内で啓蒙していって、 ビジネスとシステムが両輪で回るような仕組みを、この浸透期で作っていかないといけません。そして、必要なタイミングでマネジメント層がしっかりと右に行くべきか左に行くべきかの舵取りをして、データドリブン経営をやっていかなければいけないという意思表示をして責任を持つ必要があります。

まとめると、導入期から拡大期にかけての現場レベルでの意思疎通とミドルマネジメント層での顧客体験中心主義の文化形成、 また浸透期における経営のコミットメント、こういったアクションをフェーズごとにしっかり捉えてやっていく必要があるかなと思っています 。

データドリブンを実現していく上で、皆さんやるべきタスクが山ほどあるというような状況だとは思いますが、自社が今どのフェーズにいるのかをしっかりまずは議論して、今の状況であればこういう風にやっていきましょうという戦略を組み立てていくのがいいんじゃないかなと考えています。 

宮野まさにこの導入期から浸透期までのステップを順調に進めることができたら、一番いいなという風に思います。ただ、このプロセスを外部の力を借りずにできるかというと結構難しいなと思っていて、社内でファーストペンギンが現れた時に、この人がインフルエンサーとなって進めていくことはできるんですが、 この人も多分リスクを負いたくないと思うんですね。なので、外部の方を入れて、その人が言うことに対してみんなで一丸となって進めていけると、一番安全でやりやすくて心地よい変革になるかなという風に思いました。

吉澤そうですね。我々もご支援させていただいた企業様から、実際にそういうお声を頂戴していますし、一緒に進めていく中でアドバイスをさせていただく場面があるんですよね。 正式に一緒にお取組みをさせていただく前段階でも、壁打ち相手としてディスカッションするケースがあるんですが、やはり相手方からの主観で見ると第三者がいてくれるという安心感は結構あるかなと感じます。

社内だけではノウハウが足りませんというときに、しっかりノウハウを補助する役目もありますし、もう一つは実際自分たちが現場から意見を言ってもなかなか聞いてくれないという場面で、専門的な知見のある方がPMO的(※)に外部から組織に入りこんでアドバイスをしていくと、案外経営層の人たちもすんなり納得してくれるみたいなことは結構多いんですよね。そういう意味で、外部の知見というのをどんどん取り入れていただけたらなと思っております。

(※)PMOとは?

PMO(Project Management Office)は、組織内のプロジェクトマネジメントを横断的に支援する部門や機能を指します。PMOはプロジェクトの進捗管理、リスク管理、品質管理などを行い、PM(Project Manager)を補佐します。また、プロジェクト間の調整や標準化、経営層への報告など、組織全体のプロジェクト成功率向上に寄与します。PMOの導入により、プロジェクトの透明性が高まり、効率的な資源配分や迅速な意思決定が可能になります。

吉澤ちょっと宣伝にはなってしまうんですが、そういった内部で知見がない中で進めていくのは難しい、戦略部分から外部の知見を借りて効率的にデータドリブンを進めていきたいというご相談が多く、戦略設計に強いMJさんとデザイン・開発・グロース文脈に強いアイスリーデザインが組んでトータルソリューションを用意させていただいています。

データドリブンを実現する過程には一般的に多くのタスクが存在していますが、企業のカルチャーや現在の状況によって取り組まなければならないことは千差万別です。私たちがお客様の実態に合わせて、課題を整理しタスクの優先順位付けし、データドリブン実現のための近道となる施策を伴走支援いたします。

どこから手を付ければ良いのか分からないという方は、まずはディスカッションさせていただけると嬉しいなと思っております。 

2. どこから手を付けるべき?データドリブン経営のおすすめ対応順序

吉澤様々な企業のマーケティング支援をされてきた宮野さんに最後にお伺いしたいのですが、やらなければいけないステップがいろいろある中で、どこから始めたらいいのか、データドリブンのおすすめの対応順序をおしえてください。

宮野そうですね。ご支援していく中で以下のようなご相談はよくいただきます。

  1. 顧客の離脱:

顧客離れが生じている(気がしている)が、何が理由か分からない

ー顧客情報のブラックボックス化

  1. 効果の停滞:

マーケティング施策の効果が得られなくなってきたと感じている

ー戦略・戦術の不足

  1. 優先順位:

企業成長を目指しているが、どこから手を付けて良いか分からない

ー意思決定の判断材料不足

  1. ノウハウ不足:

データドリブン経営・マーケティングを導入したいが、何をしたら良いか分からない

ーCDO/CMO不在

  1. 手段の目的化:

データドリブンマーケティング・DXを導入したが、業務は何も変わらない

ー業務解像度が低く、失敗を招く

このようなよくある課題感の解決策としてやるべきことと、対応すべき施策の順序をご紹介できればと思います。

まず1番初めに取り組んでいただきたいのは、実際の状況を客観的に把握するということです。リサーチをして自社のデータを洗い出すという2つのことに取り組んでいくんですけれども、結構私が支援させていただく会社さんで多いのは、今まで相当調査をしてきたんだけれども、その調査結果から何をしていいかわからないというご相談ですね。こういう場合、共通して言えるのが、顧客の可視化や市場理解が足りていないということなんです。

調査を引き受ける仕事もしているんですが、自社で行った調査がなぜ実務に役立たないのかというと、マーケティングのノウハウがない方が調査設計をしてしまうと、仮説を設計することが難しくなります。調査設計の部分は非常に重要なので、ここをもう一度見直す必要があります。

例えば、市場が拡大しているのか縮小しているのか、もしくは競合参入が簡単なのかそうではないのか、あとは競合が実際誰なのか、自社の環境がどうなのか、顧客の状況がどうなのか、こういったことを総合的に考慮したうえでカスタマージャーニーを見なければなりません。カスタマージャーニーと自社の強み弱みを見た時に弱みになってしまっている部分は、できれば競合の平均値よりも上に行けるようにプロジェクトを回して速やかに改善をかけます。強みがある場合は、その強みを強化できるような商品開発だったりとかサービスレベルの改善をしていきます。

◇カスタマージャーニーを作成してみたいという方は、こちらからテンプレートをダウンロードいただけます。

カスタマージャーニーマップ | 資料ダウンロード | i3DESIGN アイスリーデザイン

▼サンプル

フェーズとしてこれ以降に、いよいよCRM、デジタルマーケティングの世界に入っていきます。お客さんが1回でも買ったら、それが永続的につながるエコシステムと呼ばれる仕組み作りをすることが重要です。その仕組み作りの中で、どこでデータを取ってどこでお客さんを理解してどこのタッチポイントでお客さんとエンゲージメントを測るかという設計をしていきます。

この一連の流れには、投資が関わってきます。要するにシステム導入になると開発のお金がかかってきますので、その全ての投資に対するリターンを計算して、それを何ヶ月あるいは何年で回収できるのか、売り上げを上げて回収するためのKPIが何なのかというのを設計していきます。ここまでできるとだいたい一連のプロセスを回せるんですが、今までやっている業務のプロセスを見直しておかないと速やかに対応ができないので、この時点で業務の棚卸しと組織デザインのやり直し、それから人材育成もやっていく必要があります。

プラスしてカスタマージャーニーの中で、例えば購買前、購買、購買後の分類において、購買の場所が店舗である場合に、いきなりここを対応するのが営業になったりする会社さんがあるんですね。そうなると、購買前と購買後はマーケティングでやっているんだけど、購買のパートだけ営業の組織になった時にここが抜け落ちるケースがあります。そういう場合は、部門をまたいだプロジェクト管理にして、全社で効率を上げていくというPDCAを回したりします。 そして、店舗と例えばアプリ、それからウェブ広告という全てのブランド体験と商品も含めて価値統一をしていきます。これまでの一連の流れのPDCAを回すというのを、全社最適で行うことが重要です。 

吉澤なるほど、課題ややることが山積みなので、いきなり森を見てしまうと手が付けられないと思うかもしれません。ただ、最初は一つ一つ取り組んでいくしかないかなと思っていて、一歩を踏み出す勇気を持って、地道な努力はひたすらやっていかなきゃいけないというのはどうしてもあります。なので、指針を定めるという部分で、その道のプロフェッショナルが隣にいた方がいいかなと思っています。

あるいは、社内でCDO(最高デジタル責任者)やCMO(最高マーケティング責任者)を採用するというのも一つのやり方だと思います。トップダウンでその意思をコミットメントしてくれるステアリングコミッティ(※)で意思決定をして、右か左かを決めなければいけないというタイミングはどこかで生じます。予算や戦略の内容、実行プランに関して指針を決めるというのを隣でやらさせていただきながら、施策を一つ一つ組み立てていけば、 数年後必ずデータ ドリブン経営を実現できるんじゃないかなという風に考えております 。

(※)ステアリングコミッティ

大規模プロジェクトにおける運営委員会のことで、ステコミと略されることもあります。関係者の代表で構成され、プロジェクト全体の方針決定や利害調整を行います。進捗確認、重要事項の決定、部門間の対立解消などが主な役割です。プロジェクトの成功に向けて、重要な意思決定機関として機能します。

宮野おっしゃる通りですね。支援をお願いするとどれくらいの期間がかかりますかというご質問もいただくんですが、最初から最後までという感じで全てやろうとすると、年単位の時間がかかってしまいます。ただ、例えば調査の一部だけとか、途中までは社内で進めているのでデザインだけとかなると、3~6ヶ月という期間を区切ったご支援も可能です。なので、このフェーズだけ外部の力を借りたいという場合にもぜひお声がけいただければと思います。 

さいごに

前編・後編2回にわたって、データドリブン経営実現までの道筋を宮野さんとともにお届けしてきましたが、いかがでしたでしょうか。この記事が、いままさにデータドリブンに取り組んでいる、もしくは取り組もうとされている皆さんの今後のヒントになれば幸いです。

データドリブン経営の実現に高いハードルを感じている企業様向けに、株式会社MJと我々アイスリーデザインは「Customer Experience 3Ds」というソリューションをご提供しております。こちらは営業資料には載せていない特別なソリューションになりますので、ご興味がある方はアイスリーデザインに直接お問い合わせください。

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顧客体験の向上をゴールに据え、現状把握からデータ分析の土台となるシステムの構築、サービス改善のためのソリューション案策定までの上流工程をお客様のカルチャーに合わせた組織変革の全体設計を得意とする株式会社MJが知見をご提供しつつ、サポートいたします。さらにアジャイル開発やUIUXデザインの知見を豊富に持つアイスリーデザインがユーザーのニーズを掴んだシステム開発をお手伝いいたします。

両社の強みを最大限に活かした一気通貫でのソリューション提供により、データドリブン経営の実現を徹底的にサポートさせていただきます。

まずは、アイスリーデザインにお気軽にお問い合わせください。

in-Pocket編集部

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デザインとテクノロジーに関する情報を発信するアイスリーデザインのオウンドメディア、"in-Pocket"の編集部です。テクノロジー・デザイン関連の解説記事やビジネス戦略にまつわるインタビュー記事などを投稿しています。日々の業務における知識のインプットとしてぜひお役立てください!

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