2024年10月18日

AI・xR

「この取り組みは間違っていなかったと実感」夢のような構想から、家具の物量を積算する新しいAIができるまで ー アート引越センターの「ぐるっとAI見積り」誕生の裏側

2024年5月にアート引越センター社がリリースした「ぐるっとAI見積り」。

スマートフォンのカメラ機能で室内をぐるっと撮影するだけで、AIが自動で見積りを算出してくれる業界初のアプリです。

このプロジェクトを担当したのがアイスリーデザイン。家具の物量を自動積算するまったく新しいAIの開発という夢のような構想からスタートしたプロジェクトから、主に単身引越の物量まで無人対応可能な高精度のシステムが完成しました。「この取り組みは間違っていなかった」とクライアントが満足げに語るアウトプットに至った背景には、両者手を取り合って進んだプロジェクトの軌跡がありました。

今回は、プロジェクトの開始〜現在に至るまでのさまざまな裏話を、本プロジェクトを担当したアート引越センターの田代さん、小林さん、畠山さんに、弊社の久保、西尾を交えて伺いました。

依頼内容は「家具の物量を積算するAIの開発」

——依頼のきっかけを教えてください。

田代さん:見積り作業は人の目によって行われるため、同じ家財や同じお客様の家でも、行う人によって多少なりとも結果が異なることは避けられません。たとえば、2トントラックに積めると見立てていたのに、実際には1トントラックで積められた、または2トントラックで積める予定だったのに積められず、追加の車両を手配しなければならない、といった非効率が発生することが稀にあります。こうした非効率は、正確な積算が可能になれば解消されると考えました。そこで、AI技術を使用することで、誰が見積りを行っても同じ結果が得られるのではないかという仮説を立て、このプロジェクトを始動しました。

——アイスリーデザインとして、依頼を受けたときにこのプロジェクトの最大の課題はなんだと思いましたか?

久保:「AIが正確に冷蔵庫やエアコンを認識し、それをもとに見積りを出す」。つまり、AIに何を覚えさせて、どうやって推定させるかを考えるのが最も難しいと思いました。既存のChatGPTのように、すでにできあがったモデルを利用するのはそれほど難しくありません。しかし、特定の目的に合ったAIモデルを自分たちで作ることは非常に難易度が高いのです。

最大の難関、AIの学習はクライアントと二人三脚で進行

——その困難な過程をどのように進めていったのですか?

久保:今回のアプリの場合、まず部屋の3D情報を作って、「点群(点の集合)」と呼ばれるデータを学習することにしました。方針が決まったら、必要なデータを集める作業に入ります。今回は教師あり学習という手法を使いました。具体的には、人間が手動でエアコンなど家具の位置にマークを付け、それをAIに渡して学習させました。AIが少しずつ賢くなり、「ここにはこういうものがありそうだ」という推定をできるようになるまで繰り返し訓練しました。

田代さん:データを集める作業は我々のほうでも全社的に協力を求めながら進めました。従業員が数千人いますからね。それでもデータが足りなくて試行錯誤するなか、プロジェクトチーム最年少の畠山が柔軟な発想でモデルルームの写真をたくさん撮ってきてくれたこともありました。初めてAIが考えて答えを出した時には、久保さんはじめアイスリーデザインの皆さんがAIのことを「この子」と呼んで、まるで自分の子のことのように喜んでいました。

——試行錯誤したポイントはほかにもありますか?

久保:もうひとつ、部屋の情報をAIにどうやって認識させるか、特にカメラで撮影した映像をどう3D化するかという問題がありました。最初に使用した技術は動画や写真をアップロードして部屋の形状を復元する技術です。しかし、この方法では、撮影中にどのような3Dモデルが作成されているのかを確認するのが難しかったのです。撮影後に3Dモデルがうまくできていないことに気づくことが多かったため、ユーザーが正確な部屋の情報を作成できるかどうかが大きな課題となっていました。

詳しくお伝えすることはできませんが、とある先進的な技術を活用することで、この課題をクリアできました。その後は、AIの学習を進めつつ、先進的な技術を活用してユーザーが簡単にモデルを作成できるようにする実装作業を進め、最終的にアプリをリリースすることができました。

田代さん:当初は撮影した動画をアップロードして3Dモデル化するという話をしていましたが、アイスリーデザインさんから、さらにいいものがあると提案いただいて、最終的に3Dスキャナーを使って3Dモデルを生成する形に変わったんですよね。この方向転換は、今までのアート引越センターでは絶対にできなかったと思います。今回のプロジェクトは実験的な要素も多く含んでいたので思い切ってできたのですが、そのおかげでいいものができたと思ってます。今まで通りのやり方でやってたら、ここまで満足いくものにはならなかったんじゃないかと思っています。

特に印象的だったことは? プロジェクト裏話

——プロジェクト中、印象的だったエピソードがあれば教えてください。

①パーカー姿のメンバーが実はキーパーソンだった!

小林さん:僕が印象的だったのは、最初のオンラインミーティングの時、画面に映るアイスリーデザインの皆さんのなかに1人パーカー姿の人がいたことです。河﨑さんって方なんですけども。その時は「やけにリラックスした雰囲気の人がいるけど大丈夫かな」と不安に思ったものの、この方が中心になってプロジェクトが進み、夢のような案だったものがどんどん形になっていき、結果こんなに素晴らしいアウトプットになったことが一番の驚きだったかもしれません。

②実際に現場に足を運んでくれたことで、信頼関係が生まれた

畠山さん:印象的だったのは、引越を受注する様子をアイスリーデザインさんが何度も実際に見に来てくれたことですね。お客様とどのようにコンタクトを取って引越しの成約に至るかという流れを理解するために、コールセンターにも来てくださり、見積りの出し方を一緒になって考えてくれました。このような行動から信頼関係が生まれたと感じています。

田代さん:引っ越し業務というのは本当に複雑で、形のあるものを単純に売るわけではなく、お客様の生活空間にどう関わるかが求められます。そのため、ライフスタイルに合わせた梱包資材のご用意など、現場の判断にも経験や感覚が非常に重要です。しかし、それを言語化して伝えるのは困難です。そのためアイスリーデザインさんに「とりあえず実際に見積りしている様子を見てください」とお願いしたら、すぐに対応してくれました。このフットワークの軽さには本当に感心しましたし、現場を深く理解しようとする姿勢を強く感じました。

実際に見てもらうと、重要なポイントをしっかりと押さえてくれているのがわかり、アイスリーデザインさんが本当に我々がアプリを使う場面を具体的に想定し考えてくれていることが伝わりました。その結果、提案される機能やデザインの随所に、私たちの期待を超えるものが示されていました。これに私たちもついつい「もっとこうしてほしい」と要望を重ねてしまいましたが、そんな追加のお願いにも嫌な顔一つせず付き合っていただき、本当にありがたかったです。

③忖度しない、つねにユーザー目線

田代さん:ある程度デザインが決まってトップに見せた時に、「アートらしくない」と指摘されたのですが、アイスリーデザインさんは「アートさんらしさではなく、一般ユーザーが使いやすいことを重視しています」と即答されました。長く勤めていますが、トップにここまで意見をはっきり述べた取引先は初めてで感心しました。

久保 :クライアント様の希望通りに作ることも重要ですが、我々は、エンドユーザーが本当に使いやすいかを第一に考えています。課題や目的、途中の仕様追加も聞いたうえで、クライアント様の希望をそのまま受け入れるのではなく「本当に必要なのか」「それをすることに合理性があるのか」までを考慮します。お客様の意図を正確に理解し、それに対して適切な答えを出すことを大切にしています。

西尾 :そうですね。今回のプロジェクトでは、最初はログイン機能をつけるつもりだったのですが、久保と話し合った上で「まずは見積りしてもらうことを優先したほうがいいので、ログイン機能はカットすべき」という結論に至りました。このように、アイスリーデザインとしては、お客様の意見を尊重しつつも、目的に合ったUIやUXを提供することを重視しています。

久保:エンジニアだけでなく、デザインやプロジェクトの進行に関わる全てのメンバーがエンドユーザーの視点を意識しているのが我々のポリシーです。エンドユーザーに近い視点でサービスを育てる専門部署があり、指導を受けながら、エンジニアとしても常により良いものを目指しています。

④実は途中でプロジェクトの抜本的な見直しをしていた

西尾:実は途中で、プロジェクト自体を大きく方向転換させなければいけないタイミングがありました。自社メンバー全員がプロジェクトに入ったことで、なんとか短期間でのリカバリーが可能になりました。

久保 :私と西尾は毎晩オンラインを繋いで、何がうまくいかないのか、一緒に考え、解決策を模索していました。日中は他の業務もあるので、夜に解決できなかった問題に二人で取り組むことが多かったです。

西尾:夜な夜な久保とソースコードを見ながら「ここが怪しいはずなんだけどな」「うまくいかないね」などと話しながら一緒に検討しました。技術的な面も含めて久保に相談しながら進め、夜中に報告をまとめて提出するという流れを繰り返していましたね。

現場も絶賛、お客様も高評価「この取り組みは間違っていなかった」

——今回のアプリで皆様が特に気に入っている部分があれば教えてください。

畠山さん:私が特に気に入っているのはデザインです。我々のコーポレートカラーは青と赤なので、グラデーションがかかった近未来的なデザインは「アート引越しセンターっぽくない」という意見も出ましたが、デザインのプロがちゃんと理論に基づいて設計くださったもので、個人的にもとても納得しています。

小林さん:私はやっぱり、ぐるっと撮影すると部屋の3Dモデルが自動で作られる機能がすごく気に入っています。いろんな角度から部屋が見えるんですよ。すごい技術だなって感じました。

田代さん:そうですね。気に入ったものを積み上げた結果がこのアプリなので、全部が気に入っています(笑)。

 ——ローンチしたプロダクトの評判はいかがでしょうか?

田代さん:一番嬉しかったのは、お引越しをご利用いただいたお客様すべてにアンケートを取らせていただいている中で、引っ越しサービスそのものではなく、AIアプリに対する評価が返ってきたことです。これを見た時には、この取り組みは間違っていなかったと実感できました。また、エンジニアをされているお客様から「とうとうここまで来ましたか」とその道のプロから高評価のコメントをいただいたことは本当に嬉しかったですね。

社内でも、3Dモデルで事前にお客様のお宅の様子が視覚的に伝わることで、作業スタッフは「今日の引っ越しはこれなんだ」と一目で理解できるようになり、引越作業での準備も格段にスムーズになったと絶賛されています。

——作り手としては、アプリの精度などどのように評価されていますか?

久保:精度についてはいくつかの観点があります。AIというのは、たとえば「9割の確率でここに冷蔵庫があるだろう」といった推定をするものです。90%以上の確率で冷蔵庫、8%の確率で棚やオブジェクトなどと判断し、最も可能性が高いものを基に計算を行います。最終的には誤差が出ることもありますが、一定の範囲内に収まるように設計しています。

現在、主に単身引越の物量であれば、許容範囲の誤差に収まるようになっています。私たちは引越し見積りの専門家ではありませんが、アートさんからは「出力された見積りは非常に安定していて、信頼できる」との評価をいただいています。ですので、精度については十分な水準に達していると考えています。現在は13立方メートルまでの範囲を対象にしていますが、短距離であれば25立方メートルまで、人が介在しなくても自動見積りだけで対応可能になるように進めています。

見積りを出さなくても良いので、ぜひ、アプリを使ってみてください。携帯の中にお部屋ができる様子を見てもらえるといいと思います。

「ぐるっとAI見積り」アプリのダウンロードはこちらから

さいごに

今回はin-Pocket初の事例インタビュー記事として、アート引越センターの皆さまに革新的なアイデアを具現化した「ぐるっとAI見積り」アプリの制作秘話をお届けしました。

弊社のコーポレートサイトには本プロジェクトの事例を掲載させていただいております。プロジェクトの具体を知りたいという方は、ぜひこちらもご覧ください。

ぐるっとAI見積り | 導入事例 | i3DESIGN アイスリーデザイン

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