DX推進の最前線で活躍する企業に、DXの進め方や今後の展望などをお伺いするDX推進企業スペシャルインタビューの第四弾。今回は、株式会社ブレインパッドの執行役員 CMOである近藤 嘉恒さんにデータ活用における環境の変化、データ活用を日常化させるための鍵など、特に「CXを向上させる」ために欠かせないデータ活用についてインタビューしました。
インタビュアーは、元人事コンサルタント、現在はアイスリーデザインにてマーケティングを担当する田中です。
本インタビュー記事は、前編・後編に分けてお届けいたします。(前編はこちらから)
目次
データ活用が当たり前の世の中に
田中:「データ活用の日常化」の「日常化」の意味合いについてお伺いしたいです。
近藤:最近のAIブームもあり、皆さん「データ活用をしなきゃ」という機運は高まる一方、まだデータ活用が当たり前の状態にはなっているとは言えません。ブレインパッドのビジョン“Data-driven as Usual”はこういった「データ活用が当たり前のようにできている世界をつくりたい」という想いからつくられました。その当たり前の状態をどうつくっていくのか。分析技法の洗練、活用できる基盤の提供、活用する文化の醸成など、「仕組みをつくっていく」ことと、それらをどう「使っているかを測っていく」のかを今、いろんな観点から考えています。
データは一部の部門だけで使うものではなく、いろんな部門・業務で使うことを文化にしていきたい。「息を吸うようにデータ活用される社会をつくる」ためにデータを「正しく健全に使いたい、使わせたい」といった側面があります。
データって、ある意味嘘もつくことができるんです。
これは極端な表現ですが、例えば社内の稟申時に「こっちの方向に持っていきたい」場合に、自分に都合の良い解釈を、分析結果のページの一部のみをうまく切り取って見せることもできる。でもデータは、そういう歪んだ解釈、悪い意味での意思が入るような解釈をさせるものじゃなくて、「合理的な判断」をさせるためのものであるのが理想だと思っています。
これまで、データで部下に騙された経営者(上司)もいたと思いますし、もしくは上司から部下へ「データしか見てないだろう、ビジネスを見ろ」というような説教がなされていたこともあったと思います。
正しくデータを活用すれば、むしろデータこそ嘘をつかない「真実(ファクト)」そのものであるはずで、すなわち、データを羅針盤にしながらディスカッションをするというような時代が私たちの考えているデータ活用の日常化、なのかもしれません。
データ活用を日常化させる鍵となる5つのデータ
近藤:一方で、データ活用をマーケティングに活かすという領域でお話しすると、鍵となるデータが5つあると考えています。
1つ目が「属性データ」、2つ目が「購買データ」、3つ目が「行動データ」。大体この3つは今までのデジタルマーケティングにおいてメジャーなところで、利活用は進んでいると思います。そこに僕はこれからお伝えする「2つ」が新たな活路として出てくるかなと。
4つ目は、嗜好のデータを分割した「価値観となるデータ」です。個人の行動には何かしらの「価値観」ってありますよね。信念や優先事項となる要素として「こういうものが好きだ」「機能重視ではなく環境問題重視」とか。このデータは固定項目ではないのと、恣意的に取得していくもののため、最初の3つのデータの中には、含まれないものです。
そして、5つ目は「感性のデータ」です。感情的な印象要素です。色やデザイン、言葉などの定性的な観点から「このブランドのこういうセンスが好き」と表現されたりします。
これまでの行動学に基づいたアプローチに加え、このような心理学を掛け合わせた「なぜそのような選択をするのか?」の探求行為にデータを用いていくことが、次のパーソナライズのトレンドになるかなと考えています。
これらのデータがどんどん溜まってくると、見えないお客様のインサイトを探りつつ、より深く把握することができます。定性的に直感で感じていたものを「データ」という測量可能な状態に仕立てることによって、接客の頻度やアプローチを論理的に変革できたり、コミュニケーションの質を上げることができます。
マーケティング活動においても今後はこの5つの活用ができると「データの日常化」が進むのではないかなと考えています。
属性データとしては、「会員登録」時にメアドの登録・住所・年齢・性別などが取得可能です。購買データは「コンバージョンタグ」で取れます。行動データは「トラッキングタグ」で「どのページにどれだけいたか」というのがわかります。
ですが、価値観や感性のデータは、能動的に顧客理解のためのアプローチを行わないと、データとして取得することができないです。この2つ(価値観・感性データ)は、顧客とのコミュニケーションのシナリオ(対話)により付与されるもので、それらに「良き解釈」を行うことで活用可能なデータとなります。単純なデータ収集ではないこの2つが、今後の事業会社におけるデータ活用の分岐点になるのではないかということです。
田中:このような取りたいデータを取る上で、どういった動き方をされていますか。例えばAIの活用をしていたりもしますか。
近藤:もちろん、生成AIを用いた対話型接客もそうですし、Webアンケートという手段もあります。また、既存のページを“解釈”しにいくというアプローチもあります。例えば「こういうページ見てます」という行動データをもとに、ページのコンテンツを意図別にタグ化し、相関をはかり、スコア化して解釈をしにいくアプローチとかが挙げられます。
「こういうコンテンツを見ている人って子育てクラスタ(集団)だな」とか。買いたい商品の導線を見ると、「今、幼児を育てるようなタイミングなんだ。ママさんはこういうところに興味があって、時短に対しても今すごく興味がある方なんだ」とか。そういった興味クラスタもデータから読み取ることができますね。
ただ、もちろんそれは単にファクト(レコード情報)からは読み解けないので、そのデータを解釈しにいくこと、つまり、 データを読み解く必要があると思います。
職種は違えど、共通言語で会話することがデータ活用を加速させる
田中:DXが進まない原因として 経営層と現場とのギャップがあるとしたら、どういうところでしょうか。
近藤:DXが進まない理由は「データ活用」が進まないことであると思っています。
データ活用は、今までは「データ偏差値が高い人」同士だったり、データ分析スキルがある人たちの「高度なテクニック」だったりとか、そういう限られた方々の中での会話だったんですね。お客様側にデータサイエンティスト、ビジネスアナリストがいらっしゃって、「この統計からこういう相関があるんだけど」というような専門的な会話が多かったというところがあります。
それは普通のビジネスパーソンからすると、結構縁遠い職種というふうに思われていたのではないかと思います。データ活用に疎い人たちの会話では、「結局、なんぼ儲かるの?」という意思決定を示せという話にいきがちです。
「データを用いて意思決定を行う」アプローチとしては、間違えていないですが、経営陣を巻き込んだデータ活用は、データを用いて「事象の構造を理解する」ことが大事なんだと思います。「風が吹けば、桶屋が儲かる」における「行間」には、すなわちそこで踏むプロセスが存在するわけです。データを触る感度が高い人とビジネスを推進する人がその「行間」の解釈を共通言語にして一緒に考えていくこと、お互いが同じ言語で会話するという歩み寄りと、その行動プロセスが必要なんだと思います。
ここ最近、全社的な号令として「デジタル戦略」を謳う企業が増えています。「データ活用を」「データドリブン経営を」と言うけれども、実際は「DX推進部を主導に」と権限を委譲してその上にいる経営陣・役員・ビジネス側の責任者たちは「データ分析・活用による意思決定」を行っていないという実情があったりします。
なので、ブレインパッドでは「経営陣向けデータ活用研修」というカリキュラムをつくり、【経営・DX推進部・現場】の三位一体のアプローチでデータへの歩み寄り方を推進する案件を増やそうと考えています。
今すぐできるDXのポイントは「“目的”に一度立ち返ること」
田中:DX推進において、短期間で効果を実感できる「小さな成功体験を得る」ということが大切だと、言われていますよね。この「小さな成功体験を得る」という点においてブレインパッドのサービスをどのように活用すべきでしょうか?
近藤:DXは変化し続けるものと思っています。もちろん目指すべき中長期的な視点も大事ですが、「明日から一歩踏み出すこと」も大事ですよね。要は、変化を模索する一歩の踏み出し方を考えるということです。
「短期間で効果が実感できる小さな成功体験」でいうと、ウェブ接客機能としてのポップアップ(※)では、「ポップアップをやったか、否か」という0-1の議論ではなくて、「何の目的でポップアップするか」を再考する必要があるかなと思います。
ポップアップとは
Webサイトやアプリケーションを利用している際に、自動的に表示されるウィンドウのことをポップアップといいます。このウィンドウは、閲覧している画面の上に重なって現れ、情報提供をしたり、次のアクションに誘導する目的で使用されます。
ポップアップの効果を「クリック」「購買」だけに定めず、先ほど話した「価値観データ」 「感性データ」の取得の可否、と考えるとします。今すぐにできることであれば、例えば「あなたの嗜好性を教えて」と聞く施策を行います。ECサイトでワインを買う時の「目的」が、「友達とワイワイ飲みたい」なのか「お世話になった上司にプレゼントがしたい」「自分のためのご褒美」なのかは、ポップアップアンケートという施策で取得が可能になるわけです。その嗜好に合わせて、おすすめ商品をレコメンドしてあげる。実はこれができている事業会社は多くはないです。
つまり「できてない施策を精査」する、ブラッシュアップをしていくことで「発見」につながる。そのような「発見を見つける」という一歩が「DX」に繋がっていくのかなと思っています。
田中:「改めて今やっていることの“目的”を考えてみる」のが始まりということですね。
近藤:そうです。CXのエクスペリエンス(体験)を把握するうえで、“手段”を用いて“目的”を明確にしていくことは、小さい成功体験をつくる上ではすごく大切なのではないかと思います。
CXを広義に捉えていく時代へ
田中:今後のDX推進においてブレインパッドが注目している技術やトレンドについて教えてください。また、どういった形で活用していくべきだと考えてらっしゃいますか。
近藤:CXをもっと広義に捉えていく時代になっていくと思っています。
マーケティングが「プロモーション」と誤認されがちなのと同様に、CXも「≒UI/UX」の探求、すなわちフロントシステムの改善や、使いやすさの改善といった部分的な話ではないと思っています。お客様は、サービスを享受した結果、本質的な価値・体験を届けてほしい、と企業側に求めています。CXの原理原則には「ちゃんと商品在庫があって、適切な時間で商品が届く」といった物流や商品在庫まで含めたサービス改善によって実現されるものだと思うのです。
そうなると、前編でお話しした社会課題がここには潜むわけです。物流の2024年問題だったり、価格弾力性(セール時期の調整)の難しさだったり、解決できていない上流の課題にぶつかるわけです。いずれにせよ、基幹システム全体のデータ活用が進まなければ、「データで読み解きにいく」ということ、本質的なCXは成り立たないと思っています。
「ちゃんと届く(配送)」「欲しいときにある(在庫)」「欲しいときにコミュニケーションされる(販促)」「いつのタイミングでセール情報が手に届くか(価格)」など、4Pの「価格設計」や「生産計画」を含めて、すべてCXに繋がってくるものだと思います。
これまでは、図にある上段(販促・店舗)の部分をマーケティングの世界として、下段(生産・在庫管理・物流/配送)の部分をサプライチェーンと区別されていましたが、今後のCXはマーケティングとサプライチェーンの融合を考慮していく流れになるであろうと考えています。
ブレインパッドは、最高のCXは、データサイエンスによる”デマンドチェーン・マネジメント”であると考えています。「デマンドチェーン」という言葉を用いているのは、「供給元」から考えるだけではなく「顧客の需要」という逆流から考えるという意図です。そこに必要なデータサイエンスとしては「予測」と「最適化」の力が必須となるので、ブレインパッドの価値が存分に活かされるのが次のステージかなと思っています。
可視化、予測、分類、生成、最適化
近藤:データ活用という言葉は、いままで「集計」や「基盤構築」「可視化」といった文脈で使われてきたケースが多かったです。
可視化の先にある予測。つまり「こういうグラフで、こういう形で見えました」「ドリルダウンでこういうことが見えた」という可視化から「次買われる行動はどうか」 という予測要素が大事になってきます。
さらに予測だけではなく、最終的には「最適化」が必要になってきます。最適化とは「あらゆる予測の中で意思決定するにあたる最適解」を導き出すことです。
分かりやすく言うならば、天気予報で25%の確率で「雨が降ります」というときに、田中さんは傘を持っていきますか?
田中:持っていかないですね。
近藤:それは何ででしょう?じゃあ何%なら傘持ってきますか?
こういった問いをすると回答は人それぞれになりますよね。それが「最適化」で、最終的には意思決定をするための手段なんですね。最適化を求めるためには、いろんな意思決定に紐づく「変数」が必要になります。
生成AIの台頭によって生成、つまり「データを生み出す」ということができるようになってきました。フロントのUIの改善にも生成AIは大いに役立ちますが、予測パターンを改善するために「データ自体を生成する」こともできるようになりました。
マーケティングテクノロジーツールは、かつて業務処理の支援ツールがメインでした。冒頭でご紹介した弊社の「Rtoaster」はデータを用いたアルゴリズム型のSaaSで、今後、この精度を高めていくことは当然のこととして研鑽を続けていきます。
ブレインパッドのAI活用としては、Google、Microsoft、AWSとアライアンス関係にあるので、彼らが持っている要素技術をフル活用していきます。ChatGPTやGoogleの機能も組み込んでいますし、画像生成AIであれば、Stability AI(Stable Diffusion)などと先進的な技術研究を行っています。
▼プレスリリース「ブレインパッド、英・Stability AIの日本法人と、生成AI/LLM領域のビジネス・技術パートナーとして連携を強化」
https://www.brainpad.co.jp/news/2023/10/31/20739
マーケターの方のお悩みポイントの一つに「クラスタリング・セグメンテーション」がありますよね。データベースの構造理解やクエリの抽出といったスキルを伴うため、着手するには腰が重くなることが多いと聞いています。
最近、「テキストで記述したら生成AIが自動的にクラスタリングする」という機能を、「Rtoaster」に標準実装したように、精度の高いレコメンド・Web接客を「マーケターにとって使いやすく」するUXにも力を入れています。
生成AIの活用によって、技術適用の可能性が広がってきました。ブレインパッドは「データサイエンスの専門集団だからこそできる生成AI活用」を考え抜くことで、事業会社のマーケターのみなさんには、「本来行うべきこと=マーケティング企画・クリエイティブ」に時間を割いていただくサポートをしていくことができればと考えています。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
後編では、今後データ活用をしていく上で鍵となるデータを起点に、さらに深い内容を語っていただきました。
・データ活用を日常化させる鍵となる5つのデータ「属性」「購買」「行動」「価値観」「感性」
→価値観や感性は良い解釈をしていくことが重要
・職種は違えど、データ分析を行う人材とビジネスを推進させる人が歩み寄ることで、データ活用は加速
・CXを広義に捉えていく時代への移り変わり、顧客は本質的な体験を求めている
会社に眠るビッグデータの活用を見直したいという方は是非、お問い合わせください。
前編では、データ活用におけるこれまでの課題感の移り変わりについてなどを語っていただいております。前編をまだお読みになられていない方は、是非前編も併せてご覧ください。(前編はこちらから)