エンジニアリング部門長の西尾です。
私たちの部門では、お客様が抱える様々な課題を、最新のIT技術を用いて解決することを目指しています。特に、モバイルアプリ開発やDevOps導入といった分野において、数多くのプロジェクトをご支援させていただいています。
最近、お客様から「サービス開発の内製化を進めている」というお話を伺う機会が増えてきました。ITベンチャーだけではなく、事業会社もサービス開発の内製化を目指し、単なるアプリ開発の依頼から、「内製化を見据えたアプリ開発の支援をしてほしい」というご相談が増えていると感じています。
開発を内製化するためには、UI/UXをベースにしたモダンな開発の経験を積むことや、開発プロセスそのものの仕組みをつくることなど、整理すべき点は多岐にわたりますが、今回は、サービスを継続的に成長させるために不可欠なDevOpsの導入に焦点を当てます。
DevOps導入の重要性と予算確保の難しさ
DevOpsの導入は、 単なるツールの導入ではなく、 組織全体の開発プロセスを変革する大きな一歩であり、 DevOpsの導入が、開発スピードの向上、品質の安定化、市場への迅速な対応など、多くのメリットをもたらすことは、皆さんもご存知のことでしょう。
DevOpsについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
> DevOpsとは?DXが進む企業の約8割が実践!メリットや導入方法を解説
> DevOpsツールチェーンとは?基本からツール選定のプロセス・注意点を解説
> DevOpsとアジャイル開発の違い:メリット、注意点、導入方法も解説
ただ、 その実現には新しいツールの導入やインフラ構築、 人材育成など、 様々なコストがかかります。
「DevOpsの効果は十分理解している、導入はしたいけど、 予算が…」と感じている方も多いはずです。
本記事では 、DevOpsの導入が必要だと考えているが、まだ説得材料が弱く、上手く言語化できていないという現場責任者の方へ向けて、 導入に必要な予算を確実に獲得するためのポイントを解説します。
経営層の納得を得て、 DevOpsの導入を進め、継続した開発を通して、価値を素早く市場へ提供するための第一歩を踏み出すことができれば幸いです。
DevOpsの導入予算を確保するための4つのポイント
一般的な企業でDevOpsツールの導入予算を確保するには、経営層への提案と承認が不可欠です。
経営層は、 経営資源の使い道に対して明確な投資対効果をチェックします。
数字で費用対効果が見えづらい事柄に対して慎重な姿勢を示すことが多いものです。事業では期初に計画した予算があり、予定外の費用に対しては、「追加で予算計上するのか?計画していた予算と入れ替えるのか?」といった検討が必要になります。
私も開発メンバーからツール導入の相談を受けますが、導入による費用対効果と計画予算を比較し、判断を行っています。
では、 どのように経営層を説得していけばよいでしょうか。
以下の4つのポイントを意識して経営層に提案することで、会社に高い価値を提供できる人材となり、市場価値の高いエンジニアとしてキャリアを積むことができるでしょう。
1. 現状の問題点を明確にする
説得するには、まず現状の問題点を明確にする必要があります。ソフトウェア開発プロセスとチームの現在地を定量的に可視化しましょう。可視化には、例えばVSM(バリューストリームマッピング)などのプロセス改善の手法を活用することができます。
VSM(バリューストリームマッピング)とは、顧客に価値を届けるまでの業務プロセス全体を可視化し、ボトルネックを特定するための手法です。
この手法は、現在の作業プロセスを分析し、将来的により効率的な状態を作り出すことを目的としています。
VSMの主な目的は以下の通りです:
- プロセスの全体像を把握する
- 無駄や非効率な部分を特定する
- 改善の機会を見出す
- リードタイムを短縮する
弊社の場合、UI/UXの企画段階から設計・開発・テストを経て、本番リリースに至るまでのプロセスを可視化し、ボトルネック(時間)を集計・特定することがVSMに該当します。


VSMは、エンドツーエンドの作業プロセスの改善、プロセスの最適化、複雑さの理解、IT システムの把握、カスタマーサービスチャンネルの評価など、様々な目的で活用されます。
たとえば、製造業では、VSMを使用して製造プロセスの無駄を特定し、それを取り除く方法を見つけるのに役立てています。ソフトウェア開発においても、最初の機能リクエストから顧客への納品までのプロセスをマッピングすることで、効率化を図ることができます。
(参考:https://asana.com/ja/resources/value-stream-mapping)
2. DevOps導入のメリットを具体的に説明する
経営層が重視しているのは、 売上向上、 コスト削減、 顧客満足度向上、競争力強化などです。経営層にとって、DevOpsによる開発体験の向上がプロダクトの価値向上、ひいては経営全体にどの程度プラスの影響を与えるのかをイメージするのは難しいものです。
Google Cloudのホワイトペーパーでも、以下の主要指標を用いてDevOpsの価値を数値化しています。しかし、経営層にとっては、事業数値に対してこれらの主要指標がどの程度影響を与えるのかが分かりにくいため、その価値を正しく伝えることが重要です。
【主要指標とその影響】
指標 | 影響 | 経済的影響 |
---|---|---|
デプロイ頻度の増加 (Deployment Frequency) | 市場投入の早期化 → 収益増加 | 市場優位性による売上向上 |
変更リードタイムの短縮 (Lead Time for Changes) | 迅速なフィードバック → 開発コスト削減 | 運用・開発コスト削減 |
平均復旧時間の短縮 (Mean Time to Restore) | サービス稼働率向上 → 顧客満足度向上 | 収益損失の回避 |
変更失敗率の低減 (Change Failure Rate) | 品質向上 → 再作業コスト削減 | エンジニアの生産性向上 |
DevOpsによる開発体験の向上が、ビジネスにどれほどのインパクトを与えるのかを数値化できれば、経営層も前向きに捉えやすくなるでしょう。
では、具体的にどのように数値化すればよいのでしょうか?
Google Cloudのホワイトペーパー”How to Measure ROI of DevOps Transformation”では、DevOpsの変革がどれほどの価値を生み出しているのかを数値化する手法が公開されていますので、気になる方は下記のリンクよりぜひダウンロードしてみてください。
これらの価値を数値化してROIを計算することで、経営層がDevOps導入の価値を具体的に把握でき、ポジティブな印象を持ってもらえるでしょう。

(参考:Google Cloud “How to Measure ROI of DevOps Transformation”
https://cloud.google.com/resources/roi-of-devops-transformation-whitepaper)
3. スモールスタートを提案する
DevOpsの全機能を一度に導入しようとすると、実装に時間がかかったり、設定ミスが発生して調整に手間取ったりと、スムーズに進まないことがよくあります。
そのため、いきなり全てを導入するのではなく、効果が明確に期待できる機能からスモールスタート するのが賢明です。小さな成功を積み重ねることで、経営層の理解や信頼を得やすくなり、DevOpsの価値を証明しながら次のステップへ進むことができます。
また、導入効果が確認できた部分を他のシステムにも展開することで、開発環境の標準化が進み、組織全体の生産性向上につながります。例えば、自動ビルドや自動デプロイの導入から始めることで、開発スピードの向上や人的ミスの削減といった分かりやすいメリットを早期に実感できます。このように、インパクトの大きい機能から段階的に導入・検証していくことをおすすめします。
4. 予想される課題と対策
DevOps導入は技術的な問題だけでなく、組織文化、スキル、プロセス、ビジネス戦略に関連する多くの課題を伴います。導入を成功させるためには、組織の成熟度を考慮し、段階的に導入することが重要です。
予想される課題をいくつかピックアップしてみます。
組織文化の変革
- 課題
- 開発と運用が分離した文化では協力体制を築きにくい。
- 既存のプロセス変更への抵抗や、失敗を許容しない風土が改善の妨げになる。
- 対策
- DevOpsのメリットを経営層と現場に伝える。小さな成功事例を共有し、導入の意義を明確化する。
- クロスファンクショナルチームの構築し、開発と運用が協力しやすい環境を作る。
- 失敗を許容し、改善を促す文化を醸成することで心理的安全性を確保する。
スキル不足と教育コスト
- 課題
- CI/CDやクラウドなどの新技術習得が必要だが、学習コストが高い。
- DevOpsエンジニアの需要が高く、採用が困難。
- 対策
- 例えばCI/CD導入から始めるなど、スモールスタートで実践しながら学ぶ。
- 実務に即した内部トレーニングを実施する。
- 外部のDevOps専門家を活用して、コンサルティングや研修を受ける。
セキュリティとコンプライアンス
- 課題
- ISOやGDPRなどの規制対応が複雑化。
- CI/CDの自動化による設定ミスのリスク。
- 対策
- セキュリティテストを自動化し、CI/CDパイプラインに脆弱性診断を組み込む。
- コンプライアンス対応を標準化し、監査対応のプロセスを自動化することで、負担を軽減する。
- DevSecOpsの導入も検討し、開発段階でセキュリティ対策を組み込む。
DevSecOpsについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
> DevSecOpsとは? メリット・デメリット、実現方法まで初心者向けに解説
適切なKPIとROIの設定
- 課題
- DevOpsの効果を測る指標が不明瞭。
- 短期的なコスト増と長期的な価値創出のバランスを評価するのが難しい。
- 対策
- 短期と長期のKPIを明確にする。デプロイ頻度、MTTR、変更失敗率など主要指標をベースに組み立てる。
- 開発スピード向上が売上や顧客満足度にどう影響するかを内外に示し、ビジネス成果と技術指標を連携させる。
- 定期的な評価とフィードバックの実施し、効果が出ているかどうかを定量的にチェックする。
変革のスピードとビジネスとの整合性
- 課題
- 新しいツールやインフラの構築、人材育成など導入段階で多くのコストがかかり、新しい技術やプロセスの導入はリスクを伴う。
- 単なる技術的な導入ではなく、組織全体の文化やプロセスの変革が必要になるが、全員の理解と協力を得ることが難しい。
- 対策
- スモールスタートで段階的に導入を進める。初めは影響が少ない範囲で実施し、成功事例を増やす。
- 経営層への定期的な報告を行い、導入の進捗や成功事例を共有し、支援を得る。
- ビジネス目標との紐付けを明確にし、DevOps導入が売上や市場競争力向上にどう貢献するかを説明する。
DevOps導入は一度にすべての課題を解決しようとせず、小さく始めて徐々に拡大するアプローチが成功の鍵となります。
さいごに
DevOpsの導入は、内製・外注を問わず組織全体の生産性向上につながる重要な取り組みです。経営層を説得し、予算を獲得するためには、プロセスの可視化と具体的なデータに基づくボトルネックの分析・改善計画を示し、費用対効果を明確にすることが重要です。
また、導入の際には「DevOpsの構築・運用に関する社内ノウハウが不足している」「リソースが限られており、開発環境の整備に十分な時間を割けない」といった課題が生じることが多いため、外部の力を有効活用することも検討すべきでしょう。
アイスリーデザインでは、クラウドのフル活用、CI/CD、DevOpsを基盤としたアジャイルな開発スタイルを採用し、常に最適な技術基盤とプロセスをお客様に提供しています。また、DevOpsにセキュリティを組み込んだDevSecOpsの内製化支援も行っています。
さらに詳しい情報が知りたい方や、具体的なアドバイスが必要な方は、ぜひお気軽にご相談ください! お問い合わせはこちらからどうぞ。