2月24日からGoogleの検索結果に表示されるようになった「Accelerated Mobile Pages (アクセラレイティッド・モバイル・ページ)」、通称AMP はウェブ担当者であれば誰しも気になっていると思います。そこで、今回はAMPプロジェクトに公式参加し、自社メディアへの対応を進めている株式会社イードで自動車メディア「レスポンス」を運営するメディア事業本部の土屋様、姜様、岡本様に(以下敬称略)にお伺いしました。
目次
社内メディア全体で顕著なスマホアクセス数の増加
−−まずはレスポンスの概要をお伺いしてよろしいですか?
土屋:私はレスポンスが所属している部門の統括を行っています。レスポンスは自動車の総合ニュースサイトとして、立ち上げて16年がすぎました。そもそも旧株式会社アスキーによって自動車情報サイト「オートアスキー」という名称で運営されていて、「車はもはやITだ」という視点から自動車業界や、幅広いクルマユーザー向けの情報を配信するWebメディアとしてスタートしています。
−−AMP対応に注力されていますが、実際のモバイルアクセス比率ってどのくらいあるんでしょうか?
土屋:レスポンスはビジネス向けの記事が多いのでPCと比べて同程度ですが、エンタメ系メディアではスマホシフトが鮮明ですね。
岡本:その他にも、「シネマカフェ」「リセマム」「サイクル」という3つのメディアでもAMP対応をしています。例えば、シネマカフェは、レスポンスよりもモバイルアクセス比率が高い傾向にありますね。
Googleのモバイル表示高速化サービスと聞いて、ピンときた!
−−そもそも御社のメディアがAMP対応をされたきっかけは何だったのでしょうか?
土屋:僕がレスポンスと同じ部門内で統括している「サイクル」というメディアは現在PVが月間1,000万弱ほどで、「いろんなことをやろう」というスタンスで運営しています。AMP対応については、Google様からモバイル表示高速化のプロジェクトということで、昨年の12月くらいに「2月頃目標で進めているんですが」と声をかけていただいたのがきっかけです。話を聞いて、FacebookのInstant ArticlesやSmartNewsのSmartモードと同じことをGoogleがやるのかとピンと来て「やるしかない」と思ったんです。
以前、GoogleのNews Standというサービスがリリース時に声をかけられたときには「自由にやってください」という程度だったのですが、今回のAMPプロジェクトでは、Google社側の意気込みが違ったのが印象深いですね。
−−実際AMP対応してみて如何でした?
岡本:まだ評価できるレベルではないのですが…。AMPプロジェクトはGoogleモバイル検索専用のものではなくて「AMPのキャッシュを用いて表示する」というプロジェクトなので、今後は様々なところから流入してくるのではないかと期待しています。ただ現状はメディア名を直接打ち込まないとあまり検索ヒットしないのですが、これからは他の検索アルゴリズムにも影響あるのかな?と、この辺りは今後に期待ですね。
デザイン設計から社内の意思決定まで試行錯誤の日々
−−AMPページ対応のプロセスについてお聞かせください。
土屋:まず、以前からお付き合いのあったGoogleの担当者様と連携して進めていきました。先方も作りながらプロジェクトを進めるというスタンスだったのですが、弊社のエンジニアリング力を買っていただいて「何か問題があれば教えてください。協力しますので」といっていただき、お互いに連絡を取り合って作っていきました。
−−工期はどの程度かかりましたか?
土屋:当社はニュースサイトを運営するための「iid-CMP(iid Content Marketing Platform)」というプラットフォームシステムがあり、それを用いて各メディアを運営しています。今回AMP対応にあたり、このプラットフォームの機能拡張を行うことになりました。これによって、例えばレスポンスで先行してAMPを利用すれば、先ほど挙げたような他メディアにも迅速に展開できます。
また、システム的な実際の対応以前にメディア運営を事業としているので「収益性」について社内で議論がありました。キャッシュされるとウェブページにアクセスがこなくなりますので「収益性はどうなるんだ」と。今後の効果測定の点からも「どうやって計測していくのか」とか。デジタルマーケティングチームとの調整ですとか、社内での意思決定のプロセスが必要でした。また、ローンチされる前のサービスでしたので、最適なデザインのノウハウもなく、手さぐりでやっていった点も時間がかかりましたね。
岡本:実際の開発という意味ではエンジニア工数で約10日ほどですね。それに加えてデザイン等といったところでしょうか。
−−デザインという点でいいますと、AMP-HTMLの制約や試行錯誤などあったかと思うのですが。
土屋:海外や日本国内で先行リリースしている会社がありましたので、デザインや広告タグの設計などはそこを参考にしつつ進めていきました。
あとは、本文の加工にも時間がかかりましたね。ニュースサイトとしてレスポンスにはAMPとは関係ない記事データが存在します。HTMLデータが打ち込まれていたり動画タグがついていたりするような。それらがAMPでは使えないので全て変換しなくてはならず、むしろその作業に一番工数がかかったかもしれません。
新しいことにチャレンジしてノウハウ蓄積
−−AMP-HTMLの仕様は、今後も変わっていくと想定されますが、実際の運用に入られたいま苦労されることはあるのでしょうか?
土屋:苦労はありませんが、逆にリリース時は使えなかった機能が徐々に使えるようになってきている、ということはありますね。当社としては、現状、機能拡張などは行っておらず、現行のもので効果測定というフェーズです。
−−AMP対応については、確かに技術的な問題だけではなく、御社でも議論があったようにビジネス面での議論もあったかと思うのですが、それでも実際にAMP対応に踏み切られたポイントは何だったのでしょう?
土屋:まず当社は各メディアにおいて、責任者の意思決定が尊重されます。「リスクはあるけどやろう」と主張すれば、分析チームがストップをかけてもチャレンジできる、という環境があります。弊社は現在40以上のメディアやコンテンツがあるのですが、メディアによっては「もう少し様子をみたい」という責任者もいます。
また、「どれくらいの期間で収益があがるか」というのを試算し、「半年は我慢できるけどそれ以上は無理だ」と売上との兼ね合いをみている点もあります。
ですから体力があるメディアは「新しいことに投資していこう」という考え方もあります。
姜:弊社はSmartNewsへの配信を行っていますし、またFacebookでもInstant Articlesのサービスが始まっていますが、「キャッシュしてモバイルユーザーの快適性を求めていく」という流れは今後本格化していくと思います。それを頑なに拒んで「Webだけで」という考えで時代に乗り遅れてしまうよりも、きちんと経験して分析しつつ、今後のWebメディアのノウハウを貯めるという点を重視しています。
対応するリスクと対応しないリスクをうまくコントロールして今後もさらに成長していきたいですね。
Googleのモバイルサイトを高速表示させるプロジェクトとしてのAMP。実際の対応状況を伺ってみると、AMPページをシステム的に対応する煩雑さよりも『ビジネスに与える協議に時間が掛かった』というのは貴重な話でした。また成果という意味ではまだ未知数ではありますが、効果よりも『対応しない方のリスクの方が大きい』といった意見は、メディア運用企業として先進技術に取り組むイード社の姿がよく表れていました。Google社の最近の動向をみていると、モバイル対応ラベルにせよ、検索ロジックに積極的にモバイル対応をパラメーターとして入れ始めています。もしかすると将来的にはAMPを実装することが必須となる日が来るかもしれませんね。
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