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モザンビークで銀行業をやる理由
第4次産業革命といわれるいま、世の中は急速な変化をしています。そういった中で新しいビジネスチャンスを見つけるためには、技術革新や社会情勢などによるパラダイム・シフトをどう見極めるかが大事です。
今回は、アフリカのモザンビークでエネルギーや食料、そして金融の地産地消を目的とした現地法人ADM社を設立し、モバイルバンクのサービス開発を進めている日本植物燃料株式会社の代表である合田 真さんとディスカッションをすることにしました。
合田さんは、アフリカ界隈・Fintech界隈では有名な方で、私とは、私が東洋経済から「アフリカビジネス入門」を執筆している関係から交友があります。私の中での合田さんはアフリカビジネス界隈によくいる際物ではなく、ある意味、哲学的で極めて博識家です。
モザンビークでの銀行業も、ソフトバンクのARM買収ではないですが、時代の先を何手も読んで動かれていると理解してるので、本日はその辺りをディスカッションできればと思います。
<プロフィール>
合田 真氏
日本植物燃料株式会社 代表取締役
2000年に植物油の輸入販売事業、植物油の研究開発事業、エネルギー作物のプランテーション経営等を行う日本植物燃料株式会社を設立。その後、アフリカのモザンビークでエネルギーや食料、金融の地産地消を目的とした現地法人ADM社を設立し、現在は同国におけるモバイルバンク設立を進めている。
モバイルバンクが作る新しい可能性と、銀行本来の機能が求められるアフリカ
芝:モバイルバンクを含むFintech(ITとの融合による新しい金融サービス)については、本当に色んな見方ができると思っています。
・個人が銀行や取引所から解放されPeer To Peerで取引ができる仕組みが可能になった⇒“自由化”や“個人の解放”
・それと同時に、貨幣経済でネットワーキングできるレイヤーを広げることにより、これまで以上に巨大資本が庶民や貧困層からお金を吸い上げる“支配の仕組み“ができてしまった
合田さんはどう考えていますか?
合田:…正直なところFintech自体には大して興味がないんですよね(笑)私がモザンビークで銀行をやるということについては、決して物好きでやっているわけではなく、第一にそこにニーズがあるからなんですよ。モザンビークをはじめとした発展途上国の人たちは今までもずっと現実に存在していたんですけど、我々は彼らと繋がっているという実感を持つことはできませんでした。でも、そうした何十億人もの人たちが、モバイルの普及によって我々と同じ基盤に乗ってきたんです。まずはこれが前提でありスタート地点だと思います。
芝:なるほど。Fintechはスタート地点であって、それが目的ではないというわけですね。
合田:僕ら日本人って、銀行でお金下ろすときに手数料取られたら「なんで俺の金なのに手数料取られるんだよ」っていうくらいの感覚があるじゃないですか。でも基本的にモザンビークって8割の国民が電気のない農村部に暮らしているから、みんな現金をその辺の地面を掘って隠したり、常に身につけておいたりしてるんですよ。
だから、モザンビークにおいては、お金を安全に預かって、安全に届けるという、銀行の基本的な機能に価値があるんです。もちろんモザンビークの既存の銀行もそこはやっているんですけど、農村部においてはやっていない。ですから、そこを我々が提供できるようにしようと思っていますね。
芝:全世界でみると、これだけ現物貨幣が流通していてクレジットカードの普及率が低いという日本の貨幣流通システムのほうがマイナーですしね。それだけ日本が安全な国であるということだと思いますが。でも、世界の人口バランスを考えると彼らのような発展途上国の人たちが今後はグローバルスタンダードになると考えてもおかしくないですよね。
合田:今後は先進国に暮らす我々のほうがマイナーということになってくるんですよね。先ほど芝さんが搾取の心配をされていましたが、発展途上国の人たちが今後発言していくことの可能性のほうを私は強く感じています。
それと同時に、お金や政治におけるルールメイキングの場において、日本は敗戦国である事実も含めさまざまな理由で、ルールメーカー側には入っていけなかった。でも、そこに新しいルートから入っていけるんじゃないかとも思っています。
農村部で回せるシステムは、他国にも応用が可能
合田:今回私が進めているモザンビークにおけるモバイルバンクですが、もともとNECと組んで最終エンドである電子マネー決済側から3年ほどやってきているものです。モザンビークは決して裕福でも安定した国でもないのですが、そこで回せるコスト構造を作ることができれば、他の国にも展開しやすいんですよね。
ほとんどの日本企業がアフリカに進出する場合、資源系でない限りは都市部を見ているのですが、都市部の発展ってアフリカ各国でバラバラなんですよ。でも、農村部の場合は発展度合いにそこまでの差はないので、横展開がしやすいんです。
芝:他国展開を考えると、従来の銀行の勘定系システムではなく独自システムを使うのでしょうか?
合田:大手銀行が使っているようなシステムの提案も受けているのですが、そのどれもがWindows95時代の現代に合わないシステムで、外部との連携を考えると結果的にものすごくお金がかかってしまうんですよ。ですから、できれば独自システムにしたいと思っています。
資本主義の限界とパラダイム・シフトの予感
芝:今回のモバイルバンクにおけるビジネスモデルですが、トランザクション・フィー(決済時の手数料)を主な収益とするんですよね。決済中心のビジネスモデルという意味では、Paypal、AliPayが大成功していますが、留保されるキャッシュも大きくなると予想されますが、融資は行わない予定なんですか?
合田:最初は行わないと思います。将来的には中央銀行からも望まれているので融資も考えていますが、まずは預金などの記録を貯めてから、そこからの計算で与信をとりたいと思っていますね。
それと、うちが他の銀行と違うのは、預金者に金利を払わないスタイルだということです。基本的には電子マネーの決済手数料を主な収益として、そこで最終的に出た利益の何%をお客さんに還元していくというかたちです。
芝:それはどういった考え方からなんですか?
合田:そもそも私としては、イスラム金融の世界観のほうが肌に合うんですよね。というのも、金利を複利で膨らませていくという発想はこれからの社会には合わないと思うんです。
ユダヤは身内から金利をとってはいけないし、イスラムは身内からも外からもとってはいけないんですけど、キリスト教はそうじゃない。新約聖書の編纂時期は、ローマ帝国の時代なので、グローバリスム・拡張主義が当たり前であり、キリスト教は、金利の危険性に不用意だったのではないかと思います。
ですから、実体経済が拡張しない時代の分配ルールとして何が公正なのか、そこに立ち返って金融を考えたいですね。
芝:なるほど。それはおもしろいですね。マスボリュームゾーンでの金融ビジネスを考えた場合、そっちの方がハマりやすいですよね。全体の金融の資本の移動で考えると、人口に対しての額がG8諸国はやはり多いじゃないですか。
先進国は少数の金持ちがものすごい額を動かすけど、新興国は小さいお金がたくさん動く。だから、それに対する利回りで考えると銀行のビジネスモデル自体が新興国と違うんですよね。
合田:そうですね。そもそもお金や金融って、エネルギーがあり食料がありプロダクトがあるという実体経済があって、これをいかに分配するかというルールなんですよね。
だから基本的に公平性というのが担保されていないとシステム全体が崩壊するんですけど、今まではその公平性はコンペティション=競争で担保されていた。頑張った人がより多くのものを得るという話です。そしてそういう時代が800〜900年くらい続いてきたんですよね。
芝:でも、そこにほころびが生じているのが現代であると。
合田:金利によって定数的に増えていく数字に、農業生産などの実体経済をあわせることは普通はできないんですよね。でも、ヨーロッパは植民地や奴隷などの実体経済がストックとして外にあったし、それを増やすことができた。だから成立していただけなんです。
公平性の担保にしても、お金を持っている極小数の人たちが全体の60%を占めているとしても、弱者にも“今年1だった財産が来年は2になる“という希望があったから、そうしたシステムを公平だと思えたんですよね。
でも、これからは違って来ますよね。石油は2006年に生産量のピークを迎え、分配が齟齬をきたし始めたんです。パイが膨らんでいるうちは良かったんですけど、これからは縮んでいく。だから別の分配ルールを作らないといけないと思うんです。
そのためにも私はモザンビークから新しい考えで銀行をはじめ、これまで金融アクセスがなかった20億人のうち1割でも新しいお金のルールで動くようにしたい。そうすれば次の50〜100年で世界が変わっていくはずだと思うんです。今、次の文明の設計図をそこに入れておきたいんですよね。
芝:リーマン・ショックのとき、現在の金融ってそもそも無理があるんじゃないかと誰もが思いましたよね。でも「みんな考え直さなきゃいけない」と言いながら、今の日本中央銀行がやっているのはマイナス金利だったりする。新しいルールの実験場として、合田さんがアフリカを選んだのはすごくおもしろいと思っています。
合田:今後は東南部アフリカ市場共同体(COMESA)にも提案し、3年以内にはモザンビーク以外でもモバイルバンクを展開したいと思っています。そもそもアフリカのほか、南アジア、東南アジア、中南米への展開は前提として考えていました。私は銀行がやりたくてやっているわけじゃなくて、文明論を考えているんです。
芝:それが本当に面白く、まさしくベンチャーマインドだと感じますね。
ディスカッションを終えて
今回、合田さんとディスカッションを行い、彼が進めているモザンビークでのモバイルバンクは、やはり際物ではないことを再確認しました。現在の金融システムとは違った新しいシステムの設立を軸とした、新しい文明やそのための新しいルールの構築。
それは非常にチャレンジングで一件大風呂敷のように感じられるかもしれませんが、その経済学的な意味は間違いなく大きなものです。あらゆる分野においてベンチャーは生き残りが最重要課題ではありますが、その一方で目先に捉われずに新しい世界の枠組みをつくるという視点は、ベンチャーの基本であり最も重要な要素であると、改めて強く思いました。