10年前、一体どれだけの人が、AirbnbやUberのようにアセット(経済資源)を持たずして大規模な事業を展開する企業の誕生を的確に予想できたでしょう。
今の時代は複雑で多様、そして不確実。従来の競争ルールでは勝負できない中、これまでのビジネスで培った経験や原則はまったく役に立ちません。AI、IoT、ブロックチェーンといったテクノロジーの技術をつかったソリューションが実際のユーザーの生活、コンテキストにどの程度受け入れられるのでしょうか。この問いに対して、従来のビジネスのフレームワークやツールだけではなかなか回答しきれません。あまりに斬新なイノベーションの場合、競合はまだ現れておらず、問題点も明確にはわからず、その使われる機会がいつなのかも曖昧です。
ではどうすればこのような状態を打破できるのか?その一つのアプローチとしてデザインスプリントがあります。
今回は、このデザインスプリントが大手企業にもたらす効果についてご紹介していきます。
目次
デザインスプリントとは
「スプリント」は元々、陸上や水泳での短距離の競技種目です。ではデザインスプリントとはなんでしょうか。これは、Google Venturesが考案した、アイデア創出からプロトタイピング、ユーザーテストと評価までをわずか5日間で完了させるためのプログラムです。多くのリソースを投入する前にプロダクトやサービスのアイデアを検討し、チームメンバー、ステークホルダー、そしてユーザーを巻き込みながら短期間でより良いソリューションを作り上げることができます。
-スプリントのプログラム例-
- 準備 プロジェクトのゴールとスコープを設定する。
- Day1 理解:背景やユーザーインサイトを確認する。
- Day2 発散:何が可能か、ブレインストーミングをする。
- Day3 決定:解決策を評価して1つ選ぶ。
- Day4 プロトタイプ:最小限の機能で実行可能なコンセプトモックを作る。
- Day5 テスト:ユーザーにとって何が効果的なのかを検証する。
スプリントで享受される3つの効果
1. スピード:5日間で意思決定する。
スピードを優先するデザインスプリントでは、プロダクトに関するアイデアや仮説を検証する際の人と時間の消費を減らしてくれます。5ヶ月費やして結局「何もしない方がいい。」という結論に達するよりは、5日でそのアイデアを探求する価値があるかどうかを判定する方がコストパフォーマンスに優れている、というのがスプリントの根底にある考え方です。
2. 集中:クリティカルな課題にフォーカス
5日間で取り扱える課題には限りがあります。だからこそこのプロジェクト成功のためのキーになる課題は何か?チームで話し合うことができます。ほとんどの組織ではプロジェクトの成功を阻害する多くの課題を認識し、またそれに対するアイデアを持っています。問題なのはそのキーになる課題を絞り込めないことでアイデアの検証や実行が伴わずに、時間だけが過ぎていくことなのです。
3. 学習:プロセスを通じてチームで学ぶ。
スプリントを通じて、チームは少ないコスト、エネルギーでさまざまな「正しい」答えを実験できるようになります。そしてその実験こそが機会や限界を早い段階で表面化させ、学びを加速させてくれます。
さらにチームで同じプロセスを経験することで、顧客が本当に求めていることを共通認識として感じられるようになりチーム力がぐっと高まるのもスプリントならではの魅力です。
いつ実施すればいいのか?
スプリントは1度で完結するものではなく、コンセプト段階、基本設計段階、詳細設計段階と何度も繰り返しながら段階的に実施していきます。はじめは大きく方向性を探り、徐々に焦点を絞り込んでいきながらソリューションの精度を高めます。
5日間という強烈な制約が“フロー状態”を創り出す
フローとは、人間がそのときしていることに、完全に浸り、精力的に集中している感覚に特徴づけられ、完全にのめり込んでいる精神的な状態をいいます。スプリントでは、5日間という制約条件の中で、解決目標を設定し、顧客からのフィードバックを得ながら、多様なスキルを使ってチャレンジすることで「フロー状態」を作り出していきます。フロー状態とは、M. チクセントミハイ氏によって提唱された、プレッシャーに押しつぶされる恐れもなく、また退屈でもない、いわゆる「没入する」「没頭する」状態になったことを言います。
プロジェクトによっては、メンバーを5日間拘束することを諦め、全5日のセッションを2ヶ月くらいかけて実施することがありますが、それだとスプリントの恩恵を十分に享受できません。スプリントの文字通り短距離走の環境を作り出し、メンバーの瞬発力を限界まで高めていくことが重要です。
新規サービス成功の鍵はいかに早くテストし、学習できるかにかかっています。
完成度を高める前に顧客のニーズや解決手段について学び、改善をし、ニーズとソリューションを合致させていくことで、ソリューションの成功率を飛躍的に高めます。長期的な視点で組織の開発プロセスへ導入していくことでイノベーションが生まれ続ける企業へと変化を促してくれるでしょう。
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