2018年7月19日

テクノロジー

デザインプロセスでのストーリーテリングの使い方 - プロダクトに物語性を持たせる方法

著者: Ainsley Yeung
スウェーデンのスタートアップ企業UX Planetでマーケティング、カスタマーサービスのプロフェッショナルとして勤務。Twitter: @YeungAinsley

こちらは、UX Planetから許可をいただいて翻訳・掲載している記事・画像です。How to use storytelling in your design process


子供の頃、学校の授業で物語を作ることや、毎晩寝る前に本を読んでもらう時間が楽しみではありませんでしたか。人は本来、ストーリーテリング、つまり物語を好む生き物なのです。

私たち人類は物語に中毒している。体が眠ってしまっても心は夜通し起きていて、自分に物語を語り聞かせるのだ。- ジョナサン・ゴットシャル

彼の言葉は科学的に解説することが可能です。人は、心温まる話や感動的な物語を聞くとオキシトシンというホルモンの分泌が増える傾向があります。オキシトシンには信頼感、思いやり、共感といった好ましい感覚を増大させる効果があり、それが他人と一緒に行動したいという気を起こさせ、私たちの社会的行動に影響をおよぼすのです。ですからプロダクトデザインに物語性を持たせることができれば、ユーザーがそのプロダクトを気に入る可能性が高まり、貴方に代わってプロダクトの魅力を広めてくれるのです。では、どのようにすれば自分がデザインするアプリやウェブサイトに物語性を持たせることが可能なのか。その方法を見ていきましょう。

ステップ1: ユーザーのライフスタイルに共鳴するプロダクトを


Giphy.com

作業に着手する前に、ターゲットとなるユーザーの情報を集める必要があります。これは市場調査やユーザー調査によって可能です。十分なデータを入手することによって、様々なユーザー像、つまり貴方の会社のプロダクトを使用するであろう架空の人物像が見えてきます。一人ひとりが、共通の特性を持つ集団を代表しています。以下にその例を見ていきましょう。

ペルソナ1: ジェシカ

  1. 仕事を持つ30歳の多忙な母親であり、2歳の男の子がいる。
  2. フルタイムで働いていて、買い物に行く時間がないため、ほとんどはネットで購入する。
  3. 料理が好きで、健康的な食生活を好む。

ネットスーパー向けのアプリをデザインするなら、ジェシカに最高のユーザーエクスペリエンスを提供するためどのような機能を持たせるでしょうか。
次のような例が考えられます。

  1. 仕事を持つ母親向けに、本人の購入履歴に基づくお勧め商品のリストを提供して、買い物に役立ててもらう。
  2. 大方の家庭はひと月に使える金額が決まっている。食品、日用品、ベビー用品などに使った金額を月毎に集計する機能があるとよいだろう。
  3. 料理が好きな人に、レシピ付きのアプリは喜ばれるだろう。特に30分で完成するメニュー、身体に良くて家族が喜ぶ夕食のレシピがあるとよい。
  4. 多忙な生活を送る人のために、食費の請求書を1か月分まとめて受け取り、支払う機能は喜ばれるだろう。

ジェシカの立場にあれば、ネットでこのアプリを見つけた瞬間に、「毎日が楽になりそう」と思うでしょう。

ユーザー像を構築する際には、その全身を想像するようにしてください。以下に例を挙げますが、これがすべてではありません。

  • 職業
  • 年齢
  • 性別
  • 収入
  • 学歴
  • 配偶者の有無
  • 目的(プロダクトの用途)
  • 嫌いなこと
  • プロダクトに対して感じる可能性がある不満

ユーザー像の構築は、物語を書くのと同様の行為です。受け手のことをよく知り、彼らが貴方と貴方のプロダクト、貴社のブランドに共感できるような言葉を発する必要があります。

ステップ2: 物語を面白くするプロットと葛藤


Giphy.com

どんな物語にも、そして貴方のプロダクトにも、プロットが必要です。プロダクトがユーザーの心をつかむためには、どのようなプロットを組み立てればよいのでしょうか。

プロットというのは、ユーザーがプロダクトを使用することで経験する道程のことです。また、ユーザーが対処に困り、貴方のプロダクトが解決策となることを期待する課題のことを葛藤と呼びます。再びネットスーパーのアプリについて見てみましょう。

ジェシカがネットスーパーのアプリを初めて知ったのは、長時間働いて帰宅し、テレビをつけた時のことでした。疲労困憊している上に、冷蔵庫には夕食の食材が何もありません。そこでデリバリーサービスを頼み、到着を待つ間にアプリをダウンロードしました。アプリを使ってみて、ジェシカはどう感じたでしょうか。

  1. 初めて起動すると、プロフィール設定に必要な簡単な質問が表示される。家族の人数や料理のスタイルなどについて回答する。
  2. 回答後にオンラインショッピングが可能になる。お勧め商品のタブやお勧めレシピが掲載されているタブが用意されている。食材を選んでショッピングカートに入れることも可能。
  3. 紙おむつのように利用頻度の高い商品に関しては、定期購入のオプションが表示される。申し込むと毎月その商品が配達されるため、ストックを切らす心配がない。
  4. 精算は、クレジットカード払いか月次請求から選択することが可能。

ログアウトしたところで、絶妙のタイミングでデリバリーが到着しました。

ジェシカにとっての課題は冷蔵庫に食材がないことです。そしてショッピングの流れ、すなわち プロフィール設定 > 商品をカートに追加 > 精算 がプロットにあたります。このフローに、短いアンケート、お勧めの商品やレシピ、定期購入オプションなど、ユーザーに喜ばれるちょっと便利な工夫が加えられています。プロダクトをデザインする際には、フロー全体がスムーズに滞りなく進行するか、気を配りましょう。使用中のユーザーが喜ぶような機能を追加することはできますか?

ステップ3: 最低1人の主役と支える脇役

登場人物抜きでは物語は成立しません。主役はプロダクトだと考えているならそれは間違いです。物語を進行させるのはプロダクトのユーザーであり、彼らを主役に据えるべきです。プロダクトは主役の暮らしをよくする脇役です。あらゆる物語にこの2つの役柄が必要です。主役を欠けば、物語は存在意義を失います。脇役がいなければ、主役はその魅力を発揮できません。プロダクト同様、貴方もユーザーなしにはデザインの方向性を見失うでしょう。また貴方のプロダクトなしには、ユーザーの暮らしがいまひとつになってしまいます。

ステップ4: 物語が輝く舞台を設定する

物語の設定に重要となる2つの要素は、時間と場所です。デザインの場合は、ユーザーが貴方のプロダクトを必要とする場所と時間を把握しておく必要があります。ネットスーパーのアプリで考えるならば、ジェシカは多忙な母親であり、買い物は待ち時間や外出先などで済ませたいと考えられます。お勧め商品のリストがあれば時短につながりますし、1ヵ月分の請求書で代金をまとめて精算することができれば、例えばバスの中などでも買い物が可能です。記載された名前や番号を見られる可能性があるバスの中で、クレジットカード決済をしようとは思わないでしょう。

ステップ5: 最終的に大切なのは美的要素

特に目的を定めず本屋に入った場合、魅力的な表紙や心に響くタイトル、紙の質感などが決め手となることがあるでしょう。色、フォント、レイアウトといった細部の影響力は軽視できません。これら3要素の組み合わせがプロダクトの第一印象を左右し、物語性やデザインに力を与えるのです。

3つの要素は、あらかじめ構築したユーザー像に合わせてデザインすると良いでしょう。洗練されたファッションを好む人をユーザー像として考えるのであれば、そのグループに属するユーザーはニュースサイトのような見た目のアプリには魅力を感じないと思われます。

最後に

感動的な物語は、世間の貴方に対する評価を形成する。その評価によって、人々は貴方の素晴らしいコンテンツに触れ、ブログ記事にコメントを残し、貴方のブログやソーシャルメディアのチャネルを引用するかどうか、また貴方を雇用したり、貴方から何かを購入したりするかどうかを決めるのだ。 - ニール・パテル

物語性は事業に多大な恩恵をもたらします。物語性はエンゲージメントを強化し、ユーザーエクスペリエンスを向上し、ユーザーをブランドの代弁者にします。デザインの観点から言うと、物語はユーザーに語り掛けるきっかけとなり、毎日を楽にしたり楽しくしたりするものを創出する力を持っています。優れたデザインの本当の美しさは、見た目ではなく、プロダクトが提供するソリューションの中にあるのです。

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