最近は、オープンイノベーションという概念が広く世の中に浸透しました。異業種や異分野の他企業など様々な団体と協力しながら、技術やアイデア、そしてビジネスとを新規創出あるいは磨き上げていく活動に、積極的に取り組む企業も少なくありません。またこのようなオープンイノベーションに積極的に取り組まない企業であっても、新規事業を行うにあたって、自社のアセットのみの閉じた世界で事業を構想する会社はほとんどありません。
既存の延長にない新しい事業を立ち上げるためには、社内のリソースや制約にとらわれず、外部とのパートナシップやコラボレーションが必要不可欠です。イノベーターと呼ばれる人々は、既存の業界の慣習や依存関係を壊し、新しい価値交換のエコシステムを組み直し、市場を席巻しています。ではどのようにすれば、競争力のあるビジネスのエコシステムが築けるのでしょうか。今回はそんな時に活用したいフレームワーク「価値交換マップ」についてご紹介していきます。
目次
価値交換マップとは
価値交換マップは、ビジネスモデルの背後にある価値ネットワーク内部の、利害関係者の間で交換される価値のやりとりを描き、可視化したものです。ビジネスモデルキャンバスを補完するとともに、オープンイノベーションに対する機会を捉えるために活用します。
活用のタイミング
まずは、事業の構想段階(初期段階)でプランAのマップを描きます。その後、ビジネスモデルキャンバス同様、検証を繰り返しながらプランB,Cと更新していきます。修正履歴を残し、あとから議論に加わったメンバーが経緯を把握できるようにしましょう。
作成の手順
ステップ1:ステークホルダーの洗い出し
競合組織・補完業者・サプライヤー・流通業者・顧客・政府など、当ビジネスに関係するステークホルダーをすべて洗い出します。
ステップ2:価値フローの考察
各ステークホルダーの間で交換されている価値が何なのか検討します。
価値交換の対象は必ずしもお金とは限りません。データ・権利・信用・評判・経験といった、無形の価値についても考慮が必要です。
ステップ3:価値交換マップの作成
ここまでのステップで得られた情報を、価値交換マップで可視化していきます。ステークホルダーを線でつなぎ、どのような価値交換がなされているのかを描いていくのです。同時に、このビジネスモデルの特徴が何なのかを見ていきましょう。
最近は新たなビジネスモデルを見ることも増えてきました。例えば、無償で顧客にサービスを提供する代わりにデータを収集し、別のステークホルダーと価値交換するビジネスモデルがあります。また、UberやAirbnbのように複数の顧客が存在する、マルチサイドプラットフォーム型モデルも増えてきています。
このような既存のビジネスモデルとの相違点を見ながら価値交換マップを作成すると、更に理解が深まります。
ステップ4:価値交換マップの分析と発展
ステップ3での価値交換マップ(たたき台)をもとに、下記の論点でディスカッションし、マップを発展させていきます。
- このサービスの価値の本質は、どこで生まれているか
- どのステークホルダーが優勢か
- 誰がデータを支配しているか
- 自社の弱みを補ってくれる外部パートナーと組めるか
- 価値の提供先は変えられないか(個人→法人、法人→個人、あるいは双方向)
ステップ5:価値交換マップの精緻化
作成したマップをもとに検証や、ステークホルダーに対してのヒアリングを行います。ビジネスモデルキャンバスで描いた構想と実際を行き来しながら、ビジネスのエコシステムの全体像を精緻化していきます。
新規ビジネスのコンセプトによって、どのような価値が生み出されるのかを瞬時に把握できるフレームワーク、それが価値交換マップです。プロジェクトチーム内での共通理解を促進するだけでなく、役員や投資家へビジネスの全体像を説明する時にも有効です。ぜひ活用してみてください。
参考文献
・白井 和康 (2017)『ビジネスモデルデザインの道具箱:14のフレームワークでイノベーションを生む』 翔泳社
・ヴィジェイ・クーマー (著), 渡部 典子 (翻訳)(2015)『101デザインメソッド:革新的な製品・サービスを生む「アイデアの道具箱」 』 英治出版
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