2018年10月17日

テクノロジー

間違いだらけの企業内新規事業?!今こそ自社のOSをアップデートしよう

N.Ohnaga

多くの企業が既存事業に加え、その延長線上にはない新規事業や、いわゆる「イノベーション」にチャレンジしています。デザインシンキングや、オープンイノベーション、社内新規事業コンテストなどに取り組む企業が増えているのです。企業としての非連続の成長を実現するためにも、その必要性や重要性は高まってきています。一方、それぞれの社内からは「トップは新しいことを実施しろと号令があったが、なぜかなかなか社内で進まない」「新しいことをやらないとまずいと感じているが、他部門の協力が得られない。」などの声も多く聞こえてきます。今回はこれまで行ってきた新規事業担当者との対話や、私自身の失敗経験からも見えてきたことをお伝えします。企業内新規事業に求められる、基礎的な視点や考え方、いうなれば搭載すべきOS(オペレーティングシステム)について、5つの視点から考えていきましょう。
 

視点1 前提:「合理性・客観性を重視」から「主観・直観を重視」へ

大手企業の成長は、客観的な数値にもとづいた適切な意思決定をしながらも、業務を効率化していくという、厳しい判断の連続の上になり立っています。そうでなければ、何十万人もの従業員・家族・ステークホルダーを支える大手企業にはなれません。一方で、世界を突如席巻するスタートアップはどうでしょうか。0→1の局面では、たった一人のビジョンや困りごとから事業が生まれるケースが往々にしてあります。
 
例えば、ソニーのウォークマンの開発秘話。ウォークマンは、当時ソニーの名誉会長であった井深大氏の「旅客機内で自分1人で、きれいな音で音楽が聴ける機器を作ってほしい」と、当時のオーディオ事業部長に依頼するところから始まったというものです。ほかの誰でもない自分が、何故これを実現したいのかを深掘りしたからこそ、新しい事業が生まれたと言えるでしょう。個人の主観・直感、インスピレーションに対し、丁寧に向き合うスタンスが求められます。
 

視点2 手法:「ベストを求めて分析を繰り返す」から「ベターを求めて実験を繰り返す」へ

すでに経験や実績がある、過去の延長である事業については、どれくらいの市場があり、そのうちの何パーセントが顧客になるのかを予測する高度な分析力が求められます。一方で過去の延長上にはない、ましてやニーズが顕在化していない新規事業ではどうでしょうか。そこでは、ビジネス仮説をプロトタイプとして顧客に提案し、評価を得ながらも段階的に仮説を修正していく、素早い実行力が求められます。
 
新規事業の成功確率は約3%といわれています。その3%に対しての一番非効率なアプローチは、筋の悪いアイデアに対し時間をかけて精緻化し、莫大なマーケティング予算をかけて市場に投入すること。分析よりも、ベターを求めて実験を繰り返すほうが、新規事業にはフィットするといえるでしょう。
 

視点3 プロセス:「計画」から「実行」へ

上場企業は四半期ごとに決算があり、予算計画通りの実績管理と着実な実行が重要です。そこで新規事業の取り組みをしようとすると、不確実性が高く試行錯誤が必要なため、全体の計画どおりとはならず、齟齬が起きてしまいます。新規事業はそのすべてがうまくいく訳ではなく、むしろ失敗や、それ以前にそもそも立ち上がらないということの方が圧倒的に多いのです。
 
計画どおりの進捗を求めようとすれば、一度立てた計画に固執しそのつじつまをあわせるための働きがメインとなってしまいます。売上や利益といった経営数字でなく、どれだけのチャレンジができたのか?またその失敗から何を得たのか?を指標とする「実行」を重視した評価システムに切り替えましょう。
 

視点4 意思決定:「ロジック・数字モデル」から「キーインサイト・実験モデル」へ

これまで経営の世界では、MECEに代表されるように、あらゆるデータを取得しロジカル思考でもれなくダブりなく戦略オプションを検討する方法が活用されてきました。しかし、それは曖昧で不確実性の高い現代においては有効なアプローチにはなりえません。業界の垣根がなくなったことで、既存のビジネスセオリーが通用しない時代となったのです。
 
現在、新規事業は短期間に何を実験し、何を学んだかが求められ、それがその後の意思決定での重要な材料になります。しかし、そもそもすべての仮説を検証することは不可能です。まるで飛行機のコックピットのように、専門家でしか理解できないようなたくさんの指標で取り囲むのはやめましょう。事業立ち上げの鍵となるのは、解決すべき顧客課題です。キーインサイトから焦点を絞り込み、実験していく勇気が求められています。
 

視点5 数字:「売上・利益計画」から「撤退条件」へ

「その事業3年後にいくらになるの?」「3年後までの予算計画書を作成して」幹部からこのようなリクエストが出てきたら黄色信号です。その幹部は10→100の最適化しながらヒト・モノ・カネを投資して事業を成長させていくフェーズと、0→1の事業の種を見つけビジネス仮説を創るフェーズを混同してしまっている可能性があります。
 
100個のビジネス仮説があっても3つ程度しか事業化できないのが新規事業。未来の予算シミュレーションに時間を割いている暇はありません。多産多死を前提に、どの程度までの失敗を許容するのかが問われています。それまでのビジネス仮説を手放したとしても、次のアイデアに移動できる条件を設けることが必要です。撤退条件を明示し、メンバーが思い切り事業に邁進できるようなルールを整備しましょう。
 
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このように、既存事業と新規事業はまったく違うOSが必要です。同じ考え方・仕組みで2つを同時に運営すると混乱をきたしてしまいます(一つの端末でmacとwindowsの2つのOSで仕事するようなものです)。
 
「新規事業は出島でやらないとうまくいかない」と耳にされたことがある方もいるでしょう。「出島」は、社内の関係性・査定に縛られることなく、試行錯誤やチャレンジが推奨されるような特別な場ということ。これまでとは全く違う考え方で新規事業を行うことが必要なのです。物理的にオフィス環境をほぼ切り離すだけでなく、人事評価システムやファイナンスなども見直しが必要となるでしょう。企業全体で新規事業が芽生える仕組みを作っていくことが求められています。
 
 
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Nobuyuki Ohnaga

N.Ohnaga

株式会社アイスリーデザイン取締役、株式会社bridge代表、サービスデザイナー。日本にペルソナを導入した先駆的企業であるmct社のコンサルタントとして人間中心イノベーション手法を活用した商品開発、サービスコンセプトの構築、イノベーション人材育成といったプロジェクトをリード。2017年1月bridge.Incを設立。多様な業種、組織の200を超えるデザインプロジェクトの実践経験をノウハウとして体系化し、スタートアップや中小企業のイノベーションを支援する。2017年8月より株式会社アイスリーデザインに役員として参画。

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