2019年11月15日

テクノロジー

逆説的イノベーションを育む人と組織あり方

N.Ohnaga

インターネットや人工知能などのテクノロジーの発展によって、既存ビジネスのルールが大きく変化していこうとしている今、イノベーションという言葉を聞かずに一日を過ごすことはなくなりました。様々な手法や、プログラム、イノベーションのプラットフォームが整備・体系化され、どこからでもイノベーション活動をスタートできるようになっています。

まだまだこのような手法やツールだけが先行し、その本質を捉えないまま流行りもののひとつとして消費してしまうケースもありますが、先行している企業においては、様々な試行錯誤を経て、一過性の取り組みではなく、組織文化としてイノベーションが育む土壌づくりに取り組み始めています。

そこで今回は、ハーバードビジネスレビューの中(2019年7月号)で、イノベーションを育む人と組織について、とても興味深い論文が掲載されていましたので、その要約をご紹介したいと思います。
 
 
「失敗は許すが、能力不足は許さない創造的な組織は逆説に満ちている」
ハーバード・ビジネス・スクール 教授 ゲイリー P. ピサノ
https://www.dhbr.net/ud/backnumber/5cf7054777656179b7010000
 

 

概要

この論文では、イノベーションが生まれる組織の条件として、多くのリーダーが
・失敗を許容する。
・実験に積極的である。
・心理的安全性が保たれている。
・部門の垣根がない、階層が少ない。
という特質を理解しているにもかかわらず、それを創り維持するのが難しいのは、革新的な企業文化が誤解されているからだという提言から始まります。すなわち、この種の特徴は文化の一面に過ぎずそれと表裏一体で厳しく厳格な側面があることを見過ごしているからだ。と。よく誤解されがちなイノベーションが生まれる組織のあり方をみていきましょう。
 
 

要約

1)失敗は許容するが能力不足は許容しない。

革新的な企業は失敗の許容を非常に重視しながらも、能力不足に対しては不寛容である。パッとしない技術スキル、生ぬるい発想、稚拙なマネジメントは容赦しない。期待に応えない人材は退社を迫るか、能力に見合ったポストに移す。不適格者を片っ端から解雇したスティーブ・ジョブス、業績下位者を一律に最低評価として放逐するamazon、トップオブトップしか入社させないgoogle。革新的な企業は、イノベーションには不確実性がつきもの、失敗を通じて学びながら先へ進めるということを前提にしながらも、浅はかな考えに基づく設計、あやまった分析、透明性の欠如によってもおこることを知っている。
 

2) 厳格な規律の元で熱心に実験を行う。

革新的な企業は、実験によって学んでいく姿勢を重視する。しかし、規律がなければ何をしてもほとんどが「実験」と認められてしまう。規律を重視する企業ではどのくらいの学習効果が得られそうかをもとにプロジェクトを選び、コストに対してできるだけ多くの情報を得ようとして手法を練る。最初に、先に進むか、軌道修正するか、中止するかを決めるための明白な判断基準をきめ、実験から得られた事実を直視する。勝算のないプロジェクトの中止を徹底することで新しいプロジェクトに取り組む際のリスクが小さくなると捉えている。

 

3) 心理的安全性はあるが、単刀直入である。

ことイノベーションの成果に関しては、歯に衣着せぬ組織が柔和な組織のしのぐ。柔和な組織は当たり障りのなさと、敬意に基づく思いやりを混同している。自分に対する辛辣な批判を受け入れることができるのは、相手の意見を尊重している場合だけなのである。人々が対立を避けようとしがちな組織、あるいは「喧々諤々の議論は礼節を踏みにじる」見なす組織においては率直に意見を戦わす文化を培うのは難しい。

 

4) 各人の責任を明確にしたうえでの協働。

イノベーションを促す仕組みがうまく機能するためには、多様な貢献社から情報や意見を出してもらう、彼らの努力を十分にまとめあげる必要がある。しかし協働は意見の一致と非常に混同されやすい。意見の一致は、迅速に意思決定したり、変革を伴うイノベーションにまつわる複雑な問題に対処する上では、非常に弊害になる。重要な意思決定に最終的な責任を負うのは特定の個人であるべきである。

 

5) 組織階層は少ないがリーダーシップは強い。

階層の少ない組織は一般に環境の変化に速やかに対応できる。意思決定が分権化されており、状況に即した情報を得やすいからだ。大勢の多様な人が貢献してくれて、その知識、専門性、視点を活かすことができるため、階層性の色濃い組織と比べてより多様なアイデアを生み出す傾向がある。ただし上下関係があまり厳格でないからといってリーダーシップが薄いとは限らない。逆説的だが、フラットな組織ほど強いリーダーシップが求められる。リーダーが戦略の優先順位と方向性を明確に示さなければフラットな組織は往々にしてカオスに陥ってしまう。

 
「コラボレーション」、「オープン」、「フラット」、「トライ&エラー」。これらはイノベーション活動に熱心な組織のキーワードであることは間違いありません。しかし、それらの背景にある重要な原則を見誤ってしまうと、同調化され責任者の見えない協働、失敗を許容する文化の元での甘い考え、学習効果の低い実験が蔓延します。今、組織文化の変革を目指すリーダーはこの表裏一体にある2つの側面をバランスしながら組織を構築していくという非常に高度な能力が求められています。

 
 

Nobuyuki Ohnaga

N.Ohnaga

株式会社アイスリーデザイン取締役、株式会社bridge代表、サービスデザイナー。日本にペルソナを導入した先駆的企業であるmct社のコンサルタントとして人間中心イノベーション手法を活用した商品開発、サービスコンセプトの構築、イノベーション人材育成といったプロジェクトをリード。2017年1月bridge.Incを設立。多様な業種、組織の200を超えるデザインプロジェクトの実践経験をノウハウとして体系化し、スタートアップや中小企業のイノベーションを支援する。2017年8月より株式会社アイスリーデザインに役員として参画。

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