2021年2月18日

UI/UXデザイン

音声UXの可能性

D4DR 代表取締役社長

日本で1/24から突然流行が始まった米国の「Clubhouse」という音声SNSアプリが話題です。日本でもじわじわと音声メディアの利用は広がっていましたがコロナ禍で鬱積していた「他人とおしゃべりしたい」という欲望が一気に爆発したような感じで一日中Clubhouseに入り浸っておしゃべりしている人がたくさんいるような状況になっています。

音声メディアの最大の特徴はスクリーンからの開放です。一日の中で一番使うデバイスがパソコンからスマホになり我々は一日中画面を見続ける生活を続けています。視力を悪くする人も相当数いるでしょう。しかし,音声メディアは眼や手をスクリーンから開放してくれることで,歩きながらや他の作業をしながらでも楽しむことができます。

特にここ数年の大きな変化はAirPodに代表されるマイクが付いたワイヤレスイヤホンの登場です。スマホを手に持っていなくても自由に移動しながら会話できるため常に音声コミュニケーションができる状態になりつつあります。ただそれだけではラジオや電話と同じです。ここで大きな課題となるのが音声コマンドです。つまり音声だけでスマホを操作できるか。GoogleやAmazonが数年前から力を入れたAIスピーカーも日本でもそこそこ普及しましたが,残念ながら日本では普通のWifiスピーカーとして使われていることが多そうで,米国のようにAmazonの注文を音声だけで行うような人はほとんどいないようです。iPhoneのコマンドをSiriメインで使っている人もあまり見かけません。

残念ながら日本コマンドの音声入力にはまだまだハードルを感じている人が多そうです。ただ3歳くらいの子供達にiPhoneやiPadを渡すとまず音声入力を覚えます。まだ文字入力ができないからです。見たい動画を探すためにYouTubeの検索を普通に言葉で入力しています。しかしやがて文字入力を覚えるとその子供達も音声を使うのを止めます。まだまだ音声のUI/UXが文字入力の利便性を越えるところまでは行ってないということなのでしょう。何より日本語の曖昧さは話し言葉になると倍増します。主語と述語がなくても通じてしまうコミュニケーションになれている中で「マイケルの90年代に流行った曲かけて」で曲をかけてくれるAIがまだほとんど存在しないです。音声は候補を絞り込むUIも不得意なためマイケルがマイケルジャクソンか,マイケルシェンカーなのかを判別するのが難しくなります。早く「きっとマイケルジャクソンですよね?ジョージマイケルやマイケルシェンカーでは無いですよね?」と確認してくれるようなUIが音声にも欲しくなります。ちなみに私のiPhoneのSiriに「マイケルかけて」と言ってみたところジプシーキングスの「マイケル」がかかりました。

まだまだ日本語の音声コマンドとしての熟成には時間がかかりそうですが,それでも音声のUIの可能性は色々ありそうです。例えばリマインド系は便利です。すでにスケジュールの読み上げなどはできるので,「そろそろ出発しないと間に合わない」とか「傘を忘れないように」など言ってくれるのはすぐにできそうです。さらに音声UIは移動中が便利なので「その先のコンビニでコーヒーが半額で買えます」なども嬉しいでしょう。あくまで自分が好きなコンビにや商品に限定して教えてくれる前提ですが。

これまではスマホの様々なサービスは画面を前提としたUI/UXでした。これからは音声と画面の組み合わせで最適化されることになるでしょう。例えば気になるお店の前で「この赤い看板のお店はどんなお店」と言えば位置情報からお店を調べて音声ではお店の基本情報を教えてくれて,スマホでは口コミやインスタなどを検索して表示してくれると便利です。いずれメガネのように画面も常に透過型で見るようなARグラスが登場することが期待されていて,ステージアップした新しい時代が来ることが予想されますが,音声とスマホの組み合わせはその時代に向けて今のネットサービス事業に向けての新しい付加価値向上の挑戦になると思われます。

 

Kentaro Fujimoto

D4DR 代表取締役社長

1991年電気通信大学を卒業。野村総合研究所在職中の1994年からインターネットビジネスのコンサルティングをスタート。日本発のeビジネス共同実験サイトサイバービジネスパークを立ち上げる。 2002年よりコンサルティング会社D4DRの代表に就任。広くITによるイノベーション,事業戦略再構築,マーケティング戦略などの分野で調査研究,コンサルティングを展開しており,様々なスタートアップベンチャーの経営にも参画し,イノベーションの実践を推進している。現在、日経MJでコラム「奔流eビジネス」,日経BIzgateで「CMO戦略企画室」を連載中。

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