昨今、ビジネスモデルを可視化するためのフレームワークの使い方を説明する書籍やサイトを目にすることが多いのですが、皆さんは各フレームワークの使い方の違いについてご存知でしょうか。
今回は、フレームワークの中でも一般的なビジネスモデルキャンバスとリーンキャンバスについて、その構造と使う場面にフォーカスして説明したいと思います。
目次
はじめに
そもそもビジネスモデルのフレームワークを使用するメリットは何でしょうか。多種のフレームワークがあると思いますが、共通して2つのメリットがある言えます。
- 1枚の紙にまとめることができるためわかりやすい
- 様々な立場の人と共通認識として共有することができる
つまり、1枚図の大きさにまとめることでチーム内で共通認識を持つための最適なツールと言えます。
ビジネスモデルキャンバスの使い方
ビジネスモデルキャンバスとは
ビジネスモデルキャンバスは、端的に言うと、どのように価値を創造し顧客に届けるか論理的、構造的に記述することで、価値提供を中心にして相互に関連性を持って繫げることで事業分析を実現するフレームワークです。
もう少し噛み砕いて説明したいと思います。
ビジネスモデルキャンバスは9つの項目から成り立ちますが、これらの項目は大きく分けて3つの構造に分けられます。(図表1参照)
図表1
企業の組織構造と照らし合わせて考えてみましょう。
例えば企画系の部署は、顧客との関係や顧客に提供する価値をより大切にする傾向にあると言えることから顧客セグメントに寄り添う傾向があると言えます。そのため、図表1の「企業外部」にあたる部分に精通していると言えるでしょう。
一方で、製造などを担当するエンジニアはどうでしょうか。エンジニアが重視する点としては、どのような価値を作るためにどんなリソースを使うか思考する傾向があると考えられます。よって、図表1の「企業内部」に精通していると言えます。
最後に、企業のお金の流れを司る財務はどうでしょうか。間違いなく、どの部署よりもコスト構造や収益の流れにピカイチで精通していますよね。よって図表1の「財務」に強いと言えます。
この様に、一つの組織内でも従事する職務によって、どこに焦点をおくか、どこに一番精通してくるか異なってきます。つまり価値観が違ってきます。では、異なる価値観が複数ある時、どんなことが起こり得るでしょうか。認識齟齬が生じる可能性が考えられますよね。
そこでビジネスモデルキャンバスの登場です。
1枚図で纏めることで誰が見ても一目瞭然な作りになっている上で、それぞれが精通する箇所も漏れなくこの図の項目として含まれているため、複数人の考えを整理しやすい特性があります。
そのため、他部署を跨いだチームで案件について会話する時などに、共通認識として有効に使用することができるツールと言えます。共通認識を持てることで手戻りも防ぎ、コミュニケーションコストの圧縮も期待できると言えます。
作成時の起点
まず、図表の中核となる価値提供にフォーカスすることが重要です。価値提案、つまり世の中にどういう価値を与えるかを最初に決める必要があります。
社会的価値=「誰かのための、何か」のない事業は存続が難しいでしょう。どんな顧客に何を与えるか考えるところから記載していきましょう。ここがずれなければ、3つのブロック間の認識も合致して書き進めることができるでしょう。
使用場面
この様にいいことだらけのビジネスモデルキャンバスですが、どの様なプロジェクトや案件で有効でしょうか。
1つの組織の他部署感で会話する時のツールに適していることは前述の通りです。つまりある程度”組織化”した企業で使うことに適することが分かります。
従って、既存事業のビジネス構造を複数の立場(顧客寄りの企画、企業内部寄りの製造、会計寄りの経理etc..)から整理・分析し、新規事業へのアプローチ方法を検討する際の設計図として使用するのに有効だと言えます。
以上のことから、既存事業の方向性を転換する時や、既存事業を元にして新規案件・事業を実施するときに使用するのが望ましいでしょう。また、様々な職種の人と一緒に使用することで、ビジネス構造を可視化し、共通言語として会話をする場面にも有効です。
上記で説明させて頂いたビジネスモデルキャンバスのテンプレートを
ダウンロードいただけます。
リーンキャンバスの使い方
リーンキャンバスとは
続いてリーンキャンバスですが、こちらは課題解決にフォーカスしたフレームワークで、主にビジネスモデルの仮説立てをするときに使用するのに適しています。
フレームワークの構造上、顧客(図表2-顧客セグメント)と課題(図表2-課題)と独自の価値提供(図表2-価値提供)が図の3本柱となっていることが分かると思います。つまり誰のどんな課題を解決したいのかを分析する表と言えるでしょう。また図表内の項目はそれぞれ隣り合う項目との整合性を持って記載される性質を持ちます。
リーンキャンバスは、記載の起点となる3項目から課題解決を検討する必要があり、課題解決の方法は仮説を立てて考えることから、その他の項目も仮説の上に思考を組み立ていくと言えます。起点となる3項目が埋められないと他が埋められない仕組みとなっており、作成したアイディアを落とし込んでいく形で他項目を埋めて進めていきます。
図表2
作成時の起点
まず、顧客(図表2の顧客セグメント)と課題(図表2の課題)と独自の価値提供(図表2の価値提供)が何であるかを考えることが重要です。誰のどんな課題を解決したいのかを分析することがポイントとなります。この3つが埋められないと他が埋められない仕組みになっており、作ったアイディアを落とし込んで作成を進めます。
リーンキャンバスの使用場面
前述からリーンキャンバスは、「仮説を立てて課題解決にフォーカスして考える」フレームワークということが分かりました。
以上のことからお気づきの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そうです、このフレームワークはスタートアップ企業や現在無い市場でのビジネス検討など、比較的答えがなくて仮説を立てて考える必要性のある場面で有効だと言えるのです。
前述のビジネスモデルキャンバスと比較して考えてみましょう。
大企業の場合、ある程度ノウハウや既存事業の延長線になってくることが多いため、仮説よりも現状分析に主軸を置きます。そのため現状分析を基にしてビジネスを展開する場面ではビジネスモデルキャンバスを使用することが適していると言えます。
対してリーンキャンバスは仮説に基づきアイディアを落とし込んで考えます。
具体的には、自分たちのやりたいことをチームで共有したい時や何度も仮説検証している時に使用するのが有効です。
また、リーンキャンバスは「設計図」ではなく、何度も自分たちの仮説を立てるためものであるため、1度書いて完了ではなく、他の調査(ユーザーインタビュー等)を経て何度もブラッシュアップして使用することで仮説の解像度をあげることに繋がります。
仮説ベースであるため、そのビジネスが成功するかどうかは実行してからでないとわからなく不確実性はありますが、リーンキャンバスを作成することで、新規サービスや商品リリース後にビジネスの原点を確認することができ、その後どう改善していくか考える際に、当初何を主軸に考えていたか立ち戻る材料となると言えるでしょう。
スピード感を持って新規事業をアップデートしていく際に、その事業が当初どこに主軸を置いていたかを確認することができ、その上でどう舵を切るか考えるための思考整理に使用することに適しています。
従って、比較的市場やサービスがまだ世に浸透してないビジネスに挑戦するスタートアップ企業や新規事業を開始する場面でブラッシュアップしながら使用するのが適切と言えるでしょう。
上記で説明させて頂いたリーンキャンバスのテンプレートを
ダウンロードいただけます。
まとめ
ビジネスモデルキャンバス、リーンキャンバスの使い方の違いについて説明させていただきました。
最後にそれぞれの違いを図表化しましたので、思考整理の一助となればと思います。
今回、構造上の違いを含めて使い方を紹介しましたが、やはり実際に手を動かして記載を進めることで、フレームワークへの理解や勘所が得られると思います。そして、何度も検証を繰り返しブラッシュアップすることで対象としているビジネスへの解像度が上がることでしょう。
参考文献
- 「ビジネスジェネレーション」アレックス・オスターワルダー、 イヴ・ピニュール(著)
- ビジネスモデルキャンバス・リーンキャンバスとは?分析を通して磨き上げられたビジネスへ
- リーンキャンバスとは?基礎知識とビジネスモデルキャンバスとの違いなどを解説
- ビジネスモデルキャンバス(BMC)とは? 企業事例・作成方法とコツ・テンプレートを紹介
- リーンキャンバス(Lean Canvas)とは? テンプレートや事例、書き方などを紹介!
▶︎in-Pocket編集部より
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