はじめに
マーケティングオートメーション(MA)は、近年多くの企業が取り組みを進めています。しかし、ツールを導入したものの「期待した効果を得られていない」、「運用がうまくいかない」といった悩みを抱えている担当者も多いのではないでしょうか?
私もマーケティングマネージャーとして、より良い運用や改善点がないか試行錯誤し改善をしています。
本記事ではMA運用のよくある課題をまとめ、改善しやすいメルマガ運用にフォーカスして成功させるための3つのポイントを紹介します。弊社のメルマガ運用におけるリアルな数値も公開しておりますので、ぜひ参考にしてみてください。
マーケティングオートメーション(MA)運用におけるよくある課題
MA運用においてはツールの使用が一般的で、弊社ではHubspotを導入しています。MAツールは顧客管理、リードナーチャリング、マーケティング分析など、多岐にわたる機能を備えています。そのため、導入初期には、
- どの機能をどのように活用すればいいのかわからない
- 複雑な設定に戸惑ってしまう
- 効果測定が難しく、PDCAサイクルを回せない
といった課題に直面することが少なくありません。私も導入初期の頃は、あれもやってみたい、これもやってみたいと設定をしたものの、結局運用が回らなくなってしまった、ということが多くありました。この辺りをよくある原因と共に、もう少し深掘りしてみたいと思います。
マーケティングオートメーション(MA)運用が失敗する理由
MA運用が期待通りの成果を出せない背景には、いくつかの共通する原因が潜んでいます。
最初から完璧なシステム構築を目指してしまう
あらゆる機能を盛り込み、複雑なシナリオを設定してしまうことで、運用が煩雑化し、担当者の負担が増大してしまうケースが散見されます。弊社でも複雑なワークフローを設定したことでメンテナンスに工数がかかったり、シナリオが増えすぎて管理できていない、ということが散見されていました。
機能が複雑で使いこなせない
MAツールはどれを選んでも機能が豊富です。高度なスキルを保有するマーケティング担当者が複数名いるような大企業でなければ、全てを使いこなすというのは現実的ではありません。マーケティング担当者が1人などの少数、もしくは他業務との兼務でも運用を継続できるように、限られた機能で効果測定できるものから使い始めるのが最適です。
部門間の連携が上手くできていない
MAツールは、マーケティング部門だけでなく、営業部門などとも連携して運用することが重要です。部門間の情報共有や協力体制が整っていない場合、MAの効果を最大限に引き出すことが難しくなります。弊社ではセールス&マーケティング部として、営業とマーケティングが同じ部内にいることにより情報共有や協力体制をスムーズに整えることができました。
多くの会社が抱える「期待と現実のギャップ」
MAツールは、マーケティング活動の効率化や自動化を実現する強力なツールですが、 「導入すれば自動的に成果が出る」という魔法のツールではありません。 多くの企業が、導入前に期待していた効果と、実際に運用してみて得られた効果との間にギャップを感じています。特に、マーケティングオートメーションという言葉が連想するような、自動的に成果が出る状況にたどり着くには、日々のモニタリングや細かな改善が必要になります。
成果に繋げるためのMA運用のポイント
MA運用を成功させるためには、段階的な運用の拡張と、継続的な改善が不可欠です。導入初期にはあれもこれもやろうと手を付けてしまうケースが一般的には多いですが、まずは少ないリソースで小さく運用・管理できる部分から始めるのが現実的です。
運用の目標をシンプルに定める
まずは、MAツールを導入することで 「何を達成したいのか?」という目標を明確にしましょう。
- リード獲得数の増加
- 顧客エンゲージメントの向上
- ウェブサイトからのコンバージョン率向上
など、具体的な目標を設定することで、適切なKPIを設定し、効果測定がしやすくなります。これら全ての目標を達成することを目指しつつも、実際一気に進めることは難しいでしょう。そこで、複数ある目標の中から、重点的に取り組むべき目標を設定するのが良いです。
MAツールを導入する企業は、既に一定数のリードを獲得しているケースも多いのではないでしょうか。それであれば、取り組みやすい部分はエンゲージメントの向上です。この手段として、メルマガ運用をスタートするのはいかがでしょうか。
リードナーチャリングの基本、「メルマガ」から改善を始めてみよう
MAツール導入初期には、メルマガ運用に焦点を当てて始めることをおすすめします。サービスや企業に何かしらの興味をもって資料をダウンロードされたり、問い合わせをしてくれた方のリード情報は、MAツール導入初期でも保有されているケースが多いのではないでしょうか。
一般的にはリードの60~70%は潜在顧客と言われ、フォローを中止したリードのうち80%が2年以内に競合他社のサービスを契約すると言われています。つまり、初期からこのリードをフォローする仕組みを作ることで、受注にも繋がる可能性が高くなります。そのために、MAツールが得意とする以下の2つは初期から取り組むのが望ましいです。
- リード / 顧客リストのセグメント化
属性や行動履歴に基づき、顧客をグループ分けすることで、それぞれのニーズに合わせたメルマガを配信できます。例えば弊社では、過去に商談したものの受注に至らなかったセグメントや、事例ページを閲覧したリードなどをセグメント分けしています。 - ステップメールの活用
事前に設定したシナリオに沿って、自動的にメールを配信するステップメールは、リードナーチャリングに効果的です。とはいえ、最初から複雑なステップメールを設定してもメンテナンスコストがかかります。機能詳細の資料をダウンロードした方には、機能について解説しているブログ記事を送るなど、シンプルなステップから始めるのが良いでしょう。
メルマガ運用の効果測定とKPI設定
MAツールは、詳細なデータ分析が可能である点が大きなメリットです。 適切なKPIを設定し、定期的に効果測定を行うことで、改善点を見つけ出し、PDCAサイクルを回していくことが重要です。弊社がメルマガ運用で見ている数値は主に以下の3つになります。
- 開封率
送信したメールのうち、何人が開封したかを示す指標 - クリック率
メール本文内のURLがクリックされた割合 - コンバージョン率
メール経由で資料請求や問い合わせなど、目標とするアクションが実行された割合
これらのKPIを継続的に追跡することで、メルマガの内容や配信タイミング、セグメント分けなどを改善し、より効果的なマーケティング活動につなげることができるでしょう。最初から正しい目標設定をすることは難しいので、まずは同業界の数値サンプルや書籍に載っている数値を参考に設定し、モニタリングするのをおすすめします。以下にて弊社でのリアルな数値を公開したいと思います。
リアルな数値から見る目標数値の目安
弊社がメルマガ運用を開始した際は、私が1名体制でスタートしました。引き継いだ当初は、既存のリードにメルマガを送っても反応はない、と言われており、まずは現状の数値を把握するために週1回のメルマガ配信からスタートしました。
以下は運用開始当初の数値です。
クラウド型のメール配信システム「配配メール」を提供しているラクス社の記事によると、
メルマガの開封率は、調査対象となる企業や調査方法にもよりますが、全体で平均すると15~20%前後とされています。
そして、クリック率は2%~3%程度です。
と記載があり、まずは上記を参考に目標を定めることにしました。
開封率は既に基準値をクリアしていたため、25%以上を目標値と設定。クリック率3%以上を目標に運用を開始しました。
実際にメール配信を続けると、思っている以上に内容による反応の差があります。マーケティング視点でも、弊社のメルマガ対象者が何に興味を持っているのかが肌感として伝わってくるようになりました。
このことから、継続して取り組むべきと判断し、現在は1週間に2~3回のメール配信を行っております。私が運用管理者として最終チェックをし、メールの文面作成はメンバーに任せています。
半年間メルマガを運用し、ある日の配信でのリアルな数値はこちらです。
- 送信数:8,049件/回
- 開封数・率:1,961件(24.36%)
- クリック数・率:51件(2.60%)
継続して運用することで、少しずつ数値が改善されてきています。開封率・クリック率ともに目標を達成するメルマガもちらほら出てきました。BtoBのメルマガは厳密に言うと毎回の配信目的によって目指す数値も変わります。セミナーの申込をゴールとしているものはコンバージョン率がKPIとなりますし、お役立ち記事などのご案内であればクリック率がKPIになります。
また、弊社ではリード獲得から商談に至るまでのリードタイムが長いため、どれだけ多くの方に社名を認知してもらい、第一想起されるグループに入っているかが重要になります。そのため、1ヶ月に1回でもメルマガを開封してくれたユニークユーザー数・率も1つの測定指標としています。
メルマガ運用を改善していく3つのポイント
メルマガは、顧客との長期的な関係を築き、安定した収益を確保するために欠かせないマーケティング手法です。しかし、ただ闇雲にメルマガを配信するだけでは、期待する効果を得ることは難しいでしょう。
ここからは、メルマガ運用を改善していく3つのポイントを紹介します。これらのポイントを意識することで、読者のエンゲージメントを高め、コンバージョン率向上につなげることができるでしょう。
1. 読者目線でのコンテンツ設計
メルマガの開封率、クリック率を高めるためには、読者にとって価値のある、有益な情報を提供することが重要です。そのためには、ペルソナ設定を行い、ターゲットとなる読者のニーズや興味関心を深く理解することが不可欠です。
弊社でいうと、ソフトウェア開発業界というのが大きな括りとなりますが、メルマガ登録者にはデザイナーもいれば、エンジニアもいたり、プロジェクトマネージャー・プロダクトマネージャーなど複数の職種の方がいます。すべてに共通しているのは、ソフトウェア開発における価値ある有益な情報を得たい、ということだと推測し、職種に偏りすぎない発信をしています。
特に以下の3点を意識しています。
- 読者の課題や悩みに寄り添った内容
ペルソナが抱える課題や悩みに対し、具体的な解決策や有益な情報を提供することで、読者の共感を呼び、信頼関係を構築することができます。弊社はセールス&マーケティング部という1つの組織の中に営業とマーケティングメンバーがいるため、課題や悩みをキャッチすることに取り組みやすい組織かと思います。 - 専門知識や経験に基づいた独自の視点
単なる情報提供だけでなく、専門家としての知見や経験に基づいた独自の分析や解釈を加えることで、メルマガの価値を高めることができます。弊社には、デザインやエンジニアリング、プロジェクトマネジメントのプロフェッショナルが在籍しており、専門的な情報発信をしています。 - 読みやすい文章と見やすいレイアウト
長文にならないよう簡潔にまとめ、箇条書きや見出しを効果的に活用することで、読みやすさを向上させることが重要です。特にメルマガはじっくりと目を通すよりも、開いて数秒で読むかどうかの判断がされます。長い文章よりも、パッと目に入る文字や画像にするなどの工夫をしてみましょう。
2. リストセグメントの工夫とパーソナライズ
弊社でも継続的に取り組んでいるのは、顧客リストを属性や行動履歴に基づいてセグメント化することです。それぞれのグループに最適化されたメルマガを配信することで、より効果的に顧客にアプローチすることができます。
セグメント化には以下の2つの方法があります。
- 属性情報によるセグメント化
年代、性別、居住地、職業などの属性情報に基づいて顧客を分類することで、よりパーソナライズされたメルマガを配信することができます。BtoBで一般的なのは、業種業界や職種、役職によるセグメント分けです。これらの情報はリード獲得時に選択式で入力してもらうのが良いです。 - 行動履歴によるセグメント化
ウェブサイトの閲覧履歴、購入履歴、メルマガの開封・クリック履歴などを分析することで、顧客の興味関心に合わせた情報を提供することができます。弊社ではメルマガを開始した際に、大きく3つの分野の記事のリンクを貼り、クリックした方をその分野にセグメント分けすることなどを行いました。また、メルマガを送信しているリストも定期的にメンテナンスすることで、半年以上開封していない方を配信対象外にするなどの地道な作業も必要になります。
パーソナライズの観点では、枝葉のテクニックにはなりますが、メルマガ本文に顧客の名前や属性情報などを挿入することで、親近感と特別感を演出する効果があり、開封率やクリック率の向上を期待できます。
3. 継続的なA/Bテストの実施
メルマガの効果を最大化するためには、継続的な改善が不可欠です。 A/Bテストを実施することで、より効果的な件名、本文、配信タイミングなどを検証し、改善していくことができます。ただし、A/Bテストには一定の母数が必要になります。また、検証する際には見るべき指標も一定の反応数がないと判断ができません。以下の4つが一般的なテスト項目になります。
- 件名:異なる件名でメルマガを配信し、開封率の高い件名を特定する。
- 本文:文章構成や表現、画像の有無などを変更し、クリック率やコンバージョン率への影響を検証する。
- 配信タイミング:曜日や時間帯を変更し、最適な配信タイミングを見つける。
- セグメント:異なるセグメントに対してメルマガを配信し、効果的なセグメント分けを検証する。
チェックリストを活用して定期的に運用を見直そう
私がメルマガ運用を始めて感じたことは、自分ひとりで運用していると観点が限定されてしまうということでした。そのため弊社では、定期的にメルマガの数値や内容について共有とフィードバックを目的としたミーティングを開催しています。また、日々の情報収集としては同業他社のメルマガや資料ダウンロードを行い、どんなメルマガが配信されているのかをチェックしています。

運用管理者としては日々の数値を追っていると思いますが、単に数値をモニタリングすればよいというものではありません。モニタリングしている数値を改善するためには以下の項目を見直す必要があります。私も以下の5項目を定期的に確認しています。
メルマガ改善のための5つのチェック項目
まとめ
メルマガ運用は、継続的な改善によって、着実に成果を積み上げていくことができます。 読者目線を忘れずに、セグメント化とパーソナライズ化の工夫、A/Bテストの実施、定期的なフィードバックや数値のモニタリングにより効果的なメルマガ運用を実現できるでしょう。
最後に、メルマガ運用を成功させるために必要なマインドセットについて触れておきます。MAツールは、多機能であるがゆえに、複雑な運用に陥りがちです。 しかし、最初から完璧を求めるのではなく、まずはシンプルな施策から始め、PDCAサイクルを回しながら、徐々に改善していくことが重要です。
小さな成功体験を積み重ねることで、担当者のモチベーションを高め、長期的なメルマガ運用につなげることができるでしょう。
弊社ではグロース支援の一環として、マーケティング領域のコンサルティングも行っております。ご興味のある方は以下よりお問い合わせください。
※クリック率(%)=(クリック数÷開封数)×100